ハーデンベルギア

幼馴染の松田が亡くなって以降、湊はなかなか立ち直れずにいた。
元々狭く深くの関係を築く湊には相談する相手が近くにいなかった。
湊は大学時代から一人暮らしだったため、今まで住んでいた家を作業用の家に変更した。
そして12月には松田の家をプライベート自宅に変更し、松田の私物をそのまま使って生活をしていた。
大学は元々もう何もしなくても時が過ぎれば卒業できる状態だった湊は無事に卒業をした。
卒業後は元より決まっていた会社に入社。
3年間、仕事一筋で働き、敢えて忙しい状態を保っていた。
それでも湊は1人になると過去に囚われたままだった。
人生で迷った時は2人のお墓まで出向き、悶々と考えて結論を出していた。

『今日も来ちゃったよ、陣平くん、研二くん』

2人にたばこを供えた。
そして湊も同じたばこを取り出し、火をつけた。

『早く2人のところに行きたいな』

でもきっと2人のところに今行ったら怒るんだろうね。と寂しそうな表情で呟いた。
たばこを吸い終わり、2人のお墓を掃除し、綺麗にすると湊は帰っていった。
帰っている途中で喉が渇いていると感じた湊は視界に入った喫茶店に足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ!お好きな席へどうぞ」

榎本梓の声が店内に響いた。
テーブル席にはお客様がまばらにいた。
湊は1人で来店したため、テーブル席を使うのは少し申し訳なく感じ、カウンターの端っこの席へ座った。
とりあえず喉が渇いて仕方がなかったので、アイスのカフェラテを頼んだ。
カフェラテが出てくる前に席についた時に置かれた冷たいお水を一気に飲み干した。

「お待たせいたしました、アイスのカフェラテです」
『ありがとうございます』

運んで来てくれた店員さんにお礼を言おうと顔を上げた時、どこかで見覚えのある顔をした人物に湊はいつもより目を見開いた。

「どうかなさいましたか?」
『あ、の…もしかして、ふるやれ』
「安室透と申します」

降谷零さんですか?と聞こうとした湊の声に被せて、どこか見覚えのある顔をした店員さんは自己紹介をしてきた。
その時の笑顔は目が笑っていなくて恐怖を感じた。

『すみません、人違いだったみたいです』
「いえいえ。伺ってもいいのかわからないですけど、その方とはどういったご関係なんですか?」
『私の大切な人達の友人、いや同期です』
「大切な人達の知人ですか」
『まあ、私の大切な人達はもうこの世にはいませんので、何の関わりもないですけどね』

なので忘れてください。と言って笑った湊の表情は寂しそうだった。
安室は降谷零を知っていそうな発言をした湊を調べる必要はあると判断をし、湊がポアロを出る前までに本人から名前を聞き出した。
そして発信機をさり気なく湊に取り付けた。
ポアロの休憩時間には風見に連絡を取り、夢咲湊の身辺調査を命令した。




「松田と萩原の幼馴染か」

降谷は風見から受け取ったデータを閲覧していた。
ポアロのバイト中に取り付けた発信機は生前松田が住んでいた場所、降谷も過去に何度か訪れたことがある場所を指していた。
そう言えば何度か彼女の写真を見せられたなと思い出した降谷はいつもより優しい表情で笑った。




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