百日草
あの日、ポアロで松田と萩原の幼馴染である夢咲湊と出会って以降、不可解な出来事が降谷の周りで起こっていた。
降谷が湊の事を調べようとすると身体が重いと感じることが多かった。
まるで誰かに邪魔されているような感覚に陥った。
またポアロに湊が来店し、軽く世間話をしているとどこからか視線を感じた。
慎重に視線の先を探ってはみたが、そこには誰もいなかった。
そして、バーボンとしての任務中を終え、潜伏していた場所から立ち去り、車でセーフティーハウスに戻っていた時、コンビニに入っていく湊を見かけた。
普段なら気にせずにそのままセーフティーハウスに戻るのだが、その日は普段と違った。
降谷以外乗っていない車から気配を感じた。
そして先程のコンビニに戻れという強い念を感じた。
降谷は違和感を覚えつつ、先程通り過ぎたコンビニへ戻ると、コンビニ内で誰かが人質に取られ、店員は怯えながら袋にお金を詰めている状況を視界に捉えた。
降谷は風見に連絡をとり、状況を伝えると、何も気付いていないお客のフリをしてコンビニへと入っていった。
と、このように、湊に関わると違和感を感じることが多かった。
一体何が起こっているんだ?
夢咲湊。
システム会社に務める一般女性。
殉職した松田陣平と萩原研二の幼馴染。
そして降谷零を知る人物。
「まさか、な…」
幽霊という非科学的な存在は信じてはいない。
徹夜が続いているため、疲れているのだろう。
そしてこの日から3週間後、認めざるを得ない出来事が起こった。
降谷は生死を彷徨うほどの大怪我を負った。
死ぬな。と何度も言われているような気がした。
意識が浮上し、ゆっくりと瞼を開けると、そこには懐かしい顔があった。
《あ、起きた》
「萩原…?」
《おはよう、降谷》
死んだのかと思った。
なぜか殉職したはずの友人と会話が出来てしまっていることに戸惑いを隠せないでいた。
ちなみに見舞いに来た部下には見えていないらしく、見えているのは降谷だけのようだ。
怪我も治り、退院後現場に復帰をしても、この現象は起きたままだった。
そして現在ポアロで働いて、湊が来店した時、感じていた視線が誰のものか漸く理解した。
『安室さん、アイスラテください』
《よお。見えてんだってな、降谷》
「ラテですね、かしこまりました」
あの感じていた視線は夢咲湊の幼馴染である松田陣平のものだった。
「はい、アイスラテです」
『ありがとうございます』
カウンターに座っている湊に注文されたアイスラテを出した。
湊の隣には幽霊である松田がいて気になり、そちらに視線を向けた。
《あんまりこっち見てると不自然だぞ》
『安室さん、どうかされたんですか?』
「いえ。なんでもないですよ」
湊に向けてにっこり笑った時、ポアロのドアが開いていないのにも関わらず開閉の鈴が鳴った。
ドアの方を振り向くと、幽霊である萩原の姿があった。
《やっぱり湊と松田ここにいたのかー》
《冷たいカフェラテが飲みたかったらしいぜ》
《相変わらず好きだねえ、カフェラテ》
萩原と松田の会話を聞いて、少し懐かしくなった。
『安室さんって、霊感でもあるんですか?』
「え、どうしてです?」
『私の隣とドアのところに誰かいるのかなって思って』
「いるかもしれませんね」
例えば、湊さんの幼馴染さんとか。と言うと、湊は今まで見せたことない優しい表情で笑った。
その優しい表情の瞳の奥に見え隠れする寂しいという感情が萩原と松田は感じ取ったようだった。
《湊、俺達はここにいるよ》
そう言って湊の頭を撫でる動作をしている萩原と、カウンターテーブルの上に置いてあった湊の手の上に手を重ねる松田がいた。
今までに見たことないぐらい甘い雰囲気を出している萩原と松田に降谷は戸惑いを隠せないでいた。
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