コルチカム

趣味はモノづくり。
特に機械関連を触ることが多い。
1人で突き詰めて何かを作り上げる時間は1人でいる寂しさを忘れることが出来た。
湊には3年前から少しずつ作っているものがあった。
湊は寝れない真夜中に作っているものを作業部屋から持ち出し、近くの公園へやってきた。

『松くん』
「どうした?」
『今何時?』
「午前1時5分。明日は8時起きだろ、帰ろう」
『うん、そうだね』

湊は先程まで話していた自分が開発したものを抱き上げて、作業部屋に向かってゆっくりと外を歩いた。
その時珍しく後から車のライトに照らされたので、道端に避けると湊の横で車が停止した。
湊は知らない車が横に停まったことに驚いた表情で車を見ると、その車の窓がゆっくりと開いた。
その車には2年前に偶然知り合ったお姉さんが乗っていた。

『べ、ベルさん!?』
「久しぶりね。こんな時間に何してるのよ」
『散歩かな?それよりベルさんはデート?かっこいい車に乗った彼氏さんだね』
「違うわよ」

湊は運転席にいるベルさんの彼氏さんであろう方に挨拶をしようと思いチラッと車の中を覗いた。
運転していた人物を見て驚いた湊は目を見開いた。

「あら、知り合い?」
『え、ううん。かっこいい彼氏さんでビックリした。あ、でもベルさん超美人だからお似合いだね』
「だから恋人じゃないわよ。それよりこんな時間に1人で歩くのは危ないから乗っていきなさい」
『え、いや、悪いよ』
「夜道は危険ですよ。送るので乗ってください」
『えっと…じゃあ、お邪魔します』

湊は松くんと呼んでいたものをぎゅっと抱えて、白い車の後部座席に乗り込んだ。

「先にベルモットでよかったですか」
「ええ。湊」
『な、に?』
「貴方が抱えているモノって」
『ああ、ベルさんには前に見せたことあるよね。
あれから色々と改造して少しずつだけど会話できるようになったんだ!』

湊は嬉しそうに松くんをベルモットに見せるように抱えた。
その時ミラー越しに運転している人と一瞬だけ目が合った。



「それじゃあ、送り狼には気を付けなさいね」
「ベルモット」
『あはは、大丈夫だよ』

湊は車から降りたベルモットに手を振った。
車が発進し、ベルモットが見えなくなると湊はチラチラとミラー越しに観察してくる運転手にため息をついた。

『何が気になるんですか、安室さん』
「やはり僕だとバレてましたか」
『いや、なんでバレないと思ったんですか。普通にわかりますよ』

湊が苦笑すると、運転をしていた安室は笑った。

「その抱えているものって」
『私が作ったロボットの松くんです』
「松くん…ですか」
『私、人より手先が器用なので』

そう言って笑った湊を見て、安室は目を細めて微笑んだ。
先程のセリフ、笑っている表情が今幽霊となって湊の隣に座っている松田と似ていたからだ。

「少し、遠回りしてもいいですか?」
『え?』
「湊さんと少しお話したくて」
《ダメだ、こいつ明日8時起きだから早く帰らせろ》
『いいですよ』
「ありがとうございます」
《降谷、聞こえてんだろ!》

幽霊となった松田の言葉は湊には聞こえていない。
そんな松田のセリフを代弁するように湊が抱えている松くんが声を発した。

「明日は8時起きだろ」
「松くん、すごいですね」
『言葉を声にのせて会話を出来る状態に持っていくのはかなり大変でした』

湊は愛おしそうに松くんを抱き抱え直した。

「湊さん、質問してもいいですか?」
『なんですか?』
「湊さんはベルモットとはどういった関係なんです?」

車が信号で停止した。
そしてミラー越しに真剣な眼差しの安室と目が合った。

『2年前のこのぐらいの時間に、怪しい車に追いかけられてるバイクに乗った女性を見かけたんです』
「その女性がベルモットだったんですか?」
『はい。私はこの近くの公園で松くんのソフトの調整をしてたんです。その時、追いかけてた車の方にあった無線の周波数を拾っちゃって聞いたんです。あの女を逃がすな、確実に始末しろって』

湊の松くんを抱きしめる力が少し強くなった。


次へ