交錯する

奏「葵ちゃん!」

天音はキーボードを背負って校舎に向かってる星野を見かけると、走って傍までやってきた。

葵「あ、おはよう!そんなに慌ててどうかしたの?」
奏「えっと…そのっ…話聞いて欲しくて」
葵「今から1時間ぐらいなら時間あるよー!」
奏「本当!?ありがとう!」

天音は星野を連れて、あまり人が来なさそうなベンチがあるところに来た。

葵「それでどうしたの?」
奏「この前、…合コン行ったんだけどさ」
葵「ああ、あのヘルプって言ってた日ね!」
奏「そう!その日!それで…」
葵「…それで?あ、もしかして彼氏出来たとか!?」
奏「で、出来てないよ!」

天音は忙しなく目を泳がし言いづらそうにしていた。

葵「もしかして松田くん?」
奏「っ!…う、うん」
葵「お迎え来てくれてんだよね?」
奏「うん。それでそのっ、私酔ってて迷惑かけちゃって」
葵「あ、お礼したいとか?」
奏「それもだけど、…その」
萩「あ、2人ともそんな所で何してるの?」
奏「は、萩原!?」
萩「やっほー、葵ちゃん、奏ちゃん」
奏「葵ちゃん!!!話聞いてくれてありがとね!!!私戻るね!!!」
葵「え!?奏ちゃん!?」

天音は荷物を持ってバッと立ち上がると、走ってその場をあとにした。

萩「あー、タイミング悪かった感じ?」
葵「めちゃくちゃ悪いよ!!」
萩「もしかしてこの前の話してた?松田が奏ちゃんを迎えに行ったやつ」
葵「うん。そうだけど、何か知ってるの?」
萩「チューしちゃったんだってさ」
葵「ええ!!?でも奏ちゃん彼氏出来てないって…!」
萩「告った訳じゃないみたいだし」
葵「何やってんの松田くん…」
萩「まあ話を聞く限り、キスで留まった松田は偉いと思うけどな」
葵「だから言いづらそうだったんだね」
萩「奏ちゃんのあの反応…、松田から聞いてた内容と少し違うんだ」
葵「違うって?」
萩「翌日、起きた時に奏ちゃんは前日のこと覚えてない様子だったみたいだけど、あの様子だと覚えてそうだよね」
葵「たぶん覚えてるね」

萩原と星野が話していると、後ろから星野の名前を呼ぶ声が聞こえた。

景「星野…と、萩原」
葵「あ、景光くんと降谷くん」
景「…」
零「2人で何してたんだ?」
萩「さっき会って話してただけだよ。ね、葵ちゃん」
葵「うん、そうだよ」

降谷は萩原と星野の返答を受け、チラリと諸伏を見ると、一瞬複雑そうな表情をしたが「そっか」と笑って誤魔化した。

葵「2人は今から授業?」
景「ああ、A棟で授業だよ」
葵「そっか!私たちはC棟で授業なんだー」
萩「あ、そろそろ行かないと後ろの席なくなる」
零「俺らも行くか。じゃあな、星野、萩」
萩「ああ、またな!」

降谷と諸伏はA棟へ、萩原と星野はC棟に向かって歩き始めた。
降谷と諸伏の姿が見えなくなって、萩原は苦笑しながら星野を見た。

葵「どうしたの?」
萩「なーんか、嫉妬されちゃったなって思ってさ」
葵「嫉妬?」
萩「そう。諸伏ってわかりやすいよね」
葵「え?」
萩「まだ葵ちゃんには早かったかな」
葵「わっ、こ、子供扱いしないでよー!」

萩原はわしゃわしゃと星野の頭を撫でていると、別方向から次、同じ授業を受ける予定の松田がやってきた。

松「…何やってんだ、お前ら」
葵「萩原くんが子供扱いしてくるの!」
萩「諸伏から嫉妬されちゃった」
松「そりゃそんな距離感だとされるだろうな」
葵「だから景光くんの嫉妬って何?」
松「あー…まあ、星野がいろいろと自覚すればわかるんじゃねーか?」
葵「萩原くんも松田くんもよくわかんない…」
萩「ヒントあげようか?」
葵「うん!」
萩「松田が奏ちゃんラブなのと同じ、的な?」
葵「えっ!!?」
松「おい!萩原!!」
萩「本当のことだろ?」
松「…違ぇよ」
葵「違うの?」
萩「チューしたのに?」
松「あれは…!星野がアイツと同じことしててもしてたぞ」
葵「ええっ!?」
松「おい引くな、しねえよ。それに星野にしたら諸伏に殺されるしな」
葵「べ、別に景光くんも私も好きとかそんなんじゃないから!」
萩「自覚するのはまだまだ先っぽいね」
松「そうだな」
葵「だ、だから!違うよ!」

顔を真っ赤にして否定する星野を見て、萩原と松田は笑った。


午前の授業が終わり、萩原と松田と星野は食堂に向かっていた。
人が混む前にやってきた3人は星野が席を取り、萩原と松田は先にご飯を買いに行った。
星野が少し寂しそうに席で1人で待っていると、何度か同じ授業で見かけた人に話しかけられた。

暁「あれ、星野さん1人?珍しいね」
葵「えっと…?」
暁「俺、何個か授業一緒だけど、俺のことわかる?」
葵「ごめんなさい、名前までは覚えていなくて…」
暁「そっか。でも顔覚えててもらえて嬉しいな!俺は夕暮暁(ユウグレ サトル)って言うんだ!友達になってくれたら嬉しいな」
葵「星野葵です。よろしくお願いします」
暁「硬い硬い!よろしく!」
奏「ちょっと暁!どこいったのー!!」
暁「ここだよー」
葵「奏ちゃんの友達?」
暁「いとこだよ」
葵「え!?」
暁「あ、いい反応」
奏「あ、葵ちゃんナンパしてたの?」
暁「珍しく1人みたいだったから、狙ってそうなやついたし」
奏「それはナイスな働きだけど、ノート忘れるのはどうかと思うけど?」
暁「げっ、忘れてた?」
零「奏、夕暮いたか?」
奏「うん、葵ちゃんナンパしてた」
景「へえ…」
暁「も、諸伏さん?お顔が怖くてよ?」
景「何が?」
暁「いえ、なんでも」

4人がやって来てから急に賑やかになったことに星野はクスリと笑った。

葵「あ、萩原君と松田君戻ってきた」
奏「わ、私このあと行くとこあるからまたね!」
暁「うわ、俺を巻き込むなよ」
葵「え!?」
零「騒がしいなあいつら」
景「星野、ナンパされてたって本当?」
葵「うーん、自己紹介してお友達になっただけだよ」
景「そっか。それならよかった」

諸伏はさりげなく星野の隣に座って安心したように笑った。
萩原と松田は星野のまわり降谷と諸伏がいたため、天音がいるかどうか見渡してみたが、姿がなかったため、そのまま席に着いた。

松「あいつは?」
零「用があるって言ってどこかに行った」
葵「(奏ちゃんわかりやすい…)」
萩「(わかりやすいな)」
景「何かあったのか?」
松「いや」
葵「何もないよ」
景「そっか」

何かを隠してそうな3人に諸伏はあまり面白くなかったが、笑顔を向けていた。
諸伏の心情に気付いていたのは降谷だけだった。


続く