お隣さん

3月と4月。
それは学生だけでなく、社会人も引越しをするタイミング。
天音はなかなか引越し業者が捕まらず、入学式の翌日である土曜日に引越しとなっていた。
朝から引越しでバタバタし、夕方頃にはなんとか一息つくことが出来た。
天音の新居は大学から徒歩10分にあるアパートの2階、1番奥の一室だった。

『さてと、お隣さんに挨拶行かなきゃ』

天音は挨拶土産を片手に隣の家のインターホンを鳴らした。
暫くしてガチャリとドアが開いた。

『はじめまして、隣に引っ越してきた天音と言います。よろしくお願いします!』

天音は勢いよくお辞儀をして挨拶土産を相手へ差し出した。
しかし相手からは挨拶土産を受け取るどころか何も反応がない。
恐る恐る顔を上げると、そこには昨日知り合った彼がいた。

『え、松田…?』
松「隣、お前だったのか」
『う、うん。今日引っ越してきた。松田は?』
松「1ヶ月ぐらい前に引っ越してきた」
『そっか』
松「おう」

は、話すことがない。
天音は居づらくなって、頬を掻きながら、『じゃあ、戻るね』と言い自分の家に戻ろうとした。

松「飯食ったか?」
『え?いや、まだだけど』
松「今から食いに行かね?」
『行く!ついでにスーパーの場所教えてくれると助かる!』
松「おう、じゃあ荷物取ってくる」
『私も取ってくる』

2人は1度それぞれの家に戻り荷物を持ってもう一度家の前に集合した。

『先ご飯でいい?』
松「いいぜ、何食う?」
『うーん、ラーメン』
松「そんなんでいいのかよ?」
『ラーメン美味しいじゃん!』
松「いやまあ、そうだけど…もっとこうなんていうか…」
『私に女性らしさを求めてはダメだよ、ワトソンくん』
松「みたいだな」
『いや、そこは否定して!?』

松田と天音は軽口を叩きながら、近くのラーメン屋にやってきた。
店内に入ると、いらっしゃいませ!と威勢のいい挨拶が聞こえ、2人はそのままカウンターへ通された。

「注文が決まりましたらお声がけ下さい」
『私決まってるけど、松田は?』
松「あー、醤油とんこつ麺普通と餃子とご飯中で」
『私は豚骨バリカタ!餃子セットで!』
松「意外と食うな」
『まあね』

2人は適当に話しながらご飯を食べ、店を出た。
そして次の目的のスーパーに向かった。
松田が荷物を持ってくれるという事だったので、天音は予定より多めに物を購入した。

『なんかごめんね。荷物持ってもらって』
松「別に気にすんな」
『今度お手製ご飯を振舞ってしんぜよう!』
松「料理できるのか?」
『ちょっとだけね!』
松「本当かよ」
『本当だし!!』
松「はいはい、楽しみにしてる」

いたずらっ子のように笑う松田に天音はぶーっと膨れっ面をした。


松田と天音が仲良くなった日。
この日の出来事は2人だけの思い出となった。


続く