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独「はぁ…。終わらない…。」

時刻は20:00。
定時は9:00ー18:00。
既に残業を初めてから2時間が経過していた。
しかし仕事は一向に終わる気配がない。
残業開始から2時間も経てば、残っている人も少なくなっていた。
独歩はコーヒーでも飲んで気分転換をしようと自分のマグカップを持って給湯室に向かった。
そこには先客がいた。

棗「あ、お疲れ様です」
独「ああ、お疲れ様です」
棗「今日も残ってたんですね」
独「まあ、終わらないですし」
棗「偶には早く帰りたいものですね」
独「そうですね」
棗「あ、コーヒーいれます?丁度お湯沸かしたんですよ」
独「ありがとうございます」

陰気な彼にも普通に話す相手は会社内にもいた。
千手棗。
同じフロア内にある別部署の後輩だった。

棗「はい、観音坂さん」
独「ありがとうございます」
棗「私年下なので敬語じゃなくてもいいのに…」
独「千手さんは俺みたいな陰気なやつとも話してくれる優しい人ですから」
棗「ええ!?私敬語苦手なので時々抜けちゃってて申し訳ないです」
独「全然気にしてませんよ」
棗「ありがとうございます。観音坂さんは優しいですね。お互い残りの仕事頑張りましょう」
独「そうですね。コーヒーありがとうございます」
棗「どういたしまして」

独歩は棗がいれてくれたコーヒーの入ったマグカップを持って自分の席へと戻った。

独「(千手さんは俺なんかと話してくれて優しいな。少し癒された)」

コーヒーを飲んで一息ついたあと、独歩は仕事を再開した。
残りの仕事はコーヒーのおかげもあってか、スムーズに進んだ。
そして仕事が終わり時計を見ると、22:00を指していた。

広いフロアにはもう2人しかいなかった。
そのうちの1人は先程話した千手棗だった。
独歩は立ち上がって帰る支度を始めると棗が「うーん」と言いながら伸びをするのが見えた。

棗「あ、お帰りですか?」
独「ええ、まあ。」
棗「私も終わったので帰ります!ちょっとだけ待ってもらえます?」
独「いいですよ」

棗は急ぎめで帰る支度をし、荷物を持って独歩の近くにやってきた。

棗「すみません、待ってもらって」
独「いえ」
棗「1人じゃちょっと怖くって」
独「そうなんですか?」
棗「だってほら…なんか出そうじゃないですか」
独「ははっ」
棗「あ!酷い!笑いましたね!」
独「いや、つい…ふっ」
棗「…いつもそうやって笑えばいいのに」
独「え?」
棗「なんでもないです!」

独歩は棗の笑顔を見て、誰かに似ていると感じたが、誰かとまでは思い出せずにいた。

棗「それではお疲れ様でした」
独「お疲れ様です」

労いの言葉を言い、帰路につこうとした時に名前を呼ばれた。

棗「あ、観音坂さん」
独「はい?」
棗「明日からは敬語無しでお願いしますね!」
独「え?」
棗「敬語だったらお願い1つ聞いてもらいますからね!それじゃあ、おやすみなさい!」
独「お願いって…」

あんなクソみたいな会社の中で癒しをくれる彼女のお願いなら、無茶じゃなければきくのになと思いつつ、独歩は自宅へ向かった。


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