追憶.はじまりのチェックメイト
11
胸騒ぎがした。
どこかしらから聞こえる猫の鳴き声。
奏は猫の鳴き声を頼りにそちらに向かうと、その場の光景にひゅっと息を呑んだ。

『れ、おくん…?なんでっ、どうして…!』
「君はレオさんの友人かい?」
『は、はいっ!れおくん血がっ!』
「すぐに救急車が来る。君、付き添ってもらえるか?」
『はいっ、もちろんです』

救急車が来ると奏は一緒に病院へと向かった。
どうやらレオは骨折したようだ。
全治3週間と言われた。
奏はレオに事情を聞こうとしたが、レオは話そうとはしなかった。

後日レオは病院を抜け出したらしい。
そして泉に連れ戻されてレオは入院をした。

奏はその日はサポート科の先生に提出する書類を作っていたため、サポートの参加は遅れると泉に連絡を入れていた。
無事に書類提出を済ませ、廊下を歩いていると何やら焦った様子の真緒がいた。

『まーくん、どうしたの?』
「あ、奏!りっちゃん見なかったか?」
『りっちゃん?見てないよ』
「電話で助けて、死にそうとだけ言われて切れたんだよ」
『えっ!?ど、どーするのっ』
「とりあえず道行く人に聞くしかない!」
『私も探す!』
「ありがとな!助かる!」

道行く人に凛月の特徴を伝えてようやくたどり着いた場所が泉から指定されたスタジオだった。

「りっちゃ〜ん!どうしたっ、『助けて、死にそう』とだけ言って電話を切るな!
せめて自分がどこにいるとか教えろよっ、すっげぇ心配したんだからな!」
「ふふん、まーくんなら大丈夫
まーくんなら世界のどこにいても俺を見つけられる
そんな俺たちの信頼関係を、後世の歴史学者は愛と名付けたんだ…♪」
「意味がわからん!苦労したんだからなっ、道行く他の生徒におまえの目撃情報を聞いたりとかさ!」
『まあまあ、りっちゃん無事で良かったじゃん』
「ちょっと…。うるさいよぉ、レッスンの邪魔でしょ?」
「えっ?あっ、すんません!」
『あ、泉くん遅くなってごめんね〜』
「奏この人と知り合いなのか?」
『うん、私がサポートしてる人だよ』
「とりあえず、その子、ほんとに体調悪いっぽいから…。ちゃんと家まで送ってあげなよ。話を聞く限り幼馴染なんでしょ?
高校生になってまで、仲良くできる幼馴染って貴重だしさ、大事にしなよ」
「あ、はい!そうですねっ、えぇっと…先輩の仰るとおりです!
じゃ、じゃあこいつは回収しますんで!どうもお世話になりましたー!」
「あれ、奏は帰らないの?」
『うん、やる事あるから。りっちゃんお大事にね。まーくんがんばって』
「おう、奏もがんばれよ〜」
「まーくん、おんぶしておんぶ♪」

真緒と凛月に手を振って見送ると、泉からじっと視線を向けられていることに気付いた。

「随分親しそうだねぇ?」
『あの2人幼馴染だから』
「へぇ、あんたも幼馴染だったの」
『うん、それより…あの人…どこかで見かけたような…』
「鳴上嵐よ、なるちゃんって呼んでね♪」
『えぇっと、私は鈴谷奏です。えっと、バックギャモンというか泉くんとれおくんのサポートしてます。よろしくね、なる、くん…?』
「んー、本当はなるちゃんがいいんだけど、まあいいわァ。奏ちゃんよろしくね♪」

嵐から手を差し出され、それに応えるように握手をした時、ウインクをされた。
間近で顔がいい男性にウインクされることに慣れてない奏は思わず固まり、顔が一気に赤くなった。
そんな奏の反応が気に食わなかった泉が不機嫌な声で話しかけた。

「あんた、俺の時はそんな反応しなかったよねぇ?」
『へっ、だってあの時は泉くん不機嫌だったじゃん』
「ふぅん。口答えするんだぁ?」
『ちょっ、近い近い近い近いっ!』
「あらあら、泉ちゃんったらヤキモチかしら?」
「はぁ?ヤキモチなんて焼くわけないでしょ。まあ、なるくんには、妹をあげる気ないけど」
『あ、妹扱いした!』
「奏は黙ってて」
「ええ。アタシてっきり泉ちゃんの彼女かと思ってたわァ」
「かっ!?」
『私彼氏いたことないよ?』
「あらそうなのー?好きな人とかいないの?♪」
「ああ、もう。無駄口叩いてないでレッスンの続きするよ」
「あら残念、また後でお話しましょうね♪奏ちゃん♪」

泉と嵐がレッスンをしている中、奏は休憩時の準備とダンスレッスンの際の準備をした。
三脚とビデオカメラを準備している奏に嵐が何してるの?と尋ねると、自分のパフォーマンスを録画して客観的に見たら改善点とかよくわかると思うから持ってきたのと奏が言った。
泉は奏にしては気が利くじゃんと褒めると、もっと素直に褒めて!と奏は主張した。

泉と嵐がダンスレッスンを行ってる中、7月のライブに使用する楽曲案をまとめていた。
やはりレオの曲が好きなようで奏はニコニコしながら楽譜を眺めていたのであった。
そして練習が終わる頃には日も落ちたので、泉が奏を家まで送り届けたのであった。

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