追憶.かわいいお願い
12
今朝もいつも通り、凛月を起こしに行った真緒が凛月を背負い、奏が凛月の鞄を持って登校していた。
3人とも同じクラスで、また奏は真緒の隣の席になっていた。
珍しく授業が自習となり、クラスの皆はやりたいことをやっていた。
凛月は相変わらず机に伏せてすやすやと寝ている。

「なあ、奏」
『どーしたの?まーくん』
「まだ作曲やってるか?」
『う、うん。やってはいるけど、サポートあるからメインではやってないって感じかなあ』
「そっか。最近できたか?」
『最近だと1曲だけなら。…でも』
「でも?」
『作曲の天才と出会っちゃってさ、なんかやっぱり違うんだなあって思っちゃって…自分の中でうまく消化できてないんだよね』
「俺はさ」
『ん?』
「ずっと前から奏の作る曲好きだぞ?」
『えへへ、まーくんは優しいね』
「言っとくけどお世辞じゃないからな」
『うん。嬉しい』
「その、奏が作った曲、今サポートしてる先輩達が歌うのか?」
『まさか。さっき言った天才の作った曲だよ』
「…じゃあさ、もし、奏が良かったらなんだけど、俺に奏の曲歌わせて」

奏は真緒の一言に驚いたように目を見開いた。
そして袖で口元を隠して目を逸らした。

「やっぱり、だめ?」
『まーくん、ずるい』
「ん?何がだよ?」
『まーくんがかわいくお願いしてくれるなら作ってあげる♪』
「ちょっとぉ、奏だけまーくん独り占めしないでよねぇ。俺もまーくんのかわいいお願い聞きたい」
「凛月、寝てたんじゃ」
「ふっふっふっ。まーくんのかわいいお願いが聞けそうだったから自然と目が覚めた。愛の力だよねぇ」
「凛月へのお願いじゃないんだけど」

この調子だと聞けそうにないなと思い、諦めて勉強道具に視線を戻すと隣から腕を引かれた。
そして奏の耳元と真緒の顔が急接近した。

「お願い、奏」

真緒に耳元で優しく囁かれた奏は、カッと顔が一気に赤くなった。
真緒に視線をやると照れくさそうに笑っていた。
そんな中、凛月は奏だけずるい、俺にもやって。と拗ねていた。


帰宅後、奏はパソコンと向き合っていた。
真緒からのお願いを思い出す度に顔が熱くなる。
こんな状態で作ったら真緒が歌う曲というよりも、ラブソングができてしまう。
それはそれでいいかもしれない。と思い、奏は音楽ソフトに打ち込みを始めた。

ふぅ。と息をつき、時計を見るととっくに日付は変わっていた。
やっちゃったと思いつつ、奏は寝支度をし、ベッドに寝転んだが、目を瞑ると学校で真緒に耳元で囁かれたお願いが頭の中をリフレインした。

『…まーくんのば〜か』

本音を言うと、あの時凄く胸が高鳴った。
今でもずっと、真緒に対する特別な感情はあった。
だけど、お互いアイドル科、サポート科に進んだ以上、この関係より先を求めてはいけないと奏は思っている。
だからこの感情は心の奥底で愛でるだけにしようと、溢れ出る前に蓋をした。

奏の独り言は誰にも聞かれる事無く、世界に溶け込んだ。

翌日、あまりよく寝れなかった奏は眠たい目をこすりながら、真緒と背負われてる凛月と一緒に登校したのであった。

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