追憶.ラブソング
13
奏は7月の上旬にやることになったバックギャモンのライブの準備をしていた。
ライブで使用する楽曲をイヤホンで聞きながら、衣装を作っているところだ。
衣装作りに関しては、手芸部を訪れ、宗に作り方を教わったのだ。
ただ、毎回行けるわけではなかったので、手芸部には入部はしなかった。
奏はライブ曲を鼻歌歌いながらチクチクと縫っていると、ポンポンと肩を叩かれた。
振り返ると嵐がニコニコした顔で立っていた。

『あ、なるくん。どうしたの?』
「奏ちゃんが楽しそうに歌ってたから近くで聞いてたんだけど、気付いてくれなくて思わず話しかけちゃった」
『え、いたなら声掛けてよ〜』
「今、声かけたじゃない♪」
『ねえ、なるくん』
「なぁに?」
『なるくんも7月のライブ、出てくれる?』
「奏ちゃんのお願いだもの、本当はめんどくさいから嫌ではあるけど、出てあげる」
『本当!?なるくんいるなら華やかになるし、嬉しい!』
「あらやだ、嬉しい事言ってくれるじゃなぁい♪」
『なるくんの衣装も頑張って作るね!』
「うふふ、楽しみにしてるわァ。それよりも、奏ちゃん、最近ちゃんと寝てるの?」
『え?』
「クマできてるわよ」
『嘘!?目の使いすぎかなぁ』
「何かしてるの?」
『んー、ナイショ♪』

えへへと笑う奏にあまり無理しちゃダメよぉという嵐。
なんだかお姉ちゃんみたいだなと思った。
あと、泉くんにバレる前にクマは治さないとなぁとも思った。

夜帰宅すると、真緒への曲作りをやった。
ある程度は完成したが、翌日寝て起きて聞くとやはり気になる点がみつかり、編集するというのを1週間ほど繰り返していた。
そして、ついに渡せるぐらいまで完成させることが出来た。
奏は明日渡そうと思いつつベッドに潜り眠りについた。

翌日、真緒にデータを渡そうとする度にタイミングが合わずに渡せていなかった。
そうこうしていたらあっという間に放課後になり、バックギャモンの練習の時間になってしまった。
奏は溜息をつきながら、すっかりお馴染みになったスタジオに足を運ぶとそこには入院していたはずのレオがいた。
どうやら昨日、退院したようだった。
言ってくれればいいのにと言ったら、ごめんな!と笑いながら謝られた。

「ん?奏パソコン何に使うんだ?」
『ポスター作ったりしてるの』
「へー、触ってもいいか?」
『うん、いいよ。私は衣装を作ってるね』

奏がチクチクと縫っていると、暫くしてからパソコンから音楽が流れ始めた。
それは昨日完成した真緒への曲と一緒に作ってた曲だった。

『まままままって!!!?とめて!!?』
「ん?なんでだ?」
『だめっ、聞いちゃダメ!』

停止ボタンを押すと、止まる音楽。
レオは慌てる奏にこれお前が作ったのか?と尋ねた。
奏がうんと頷くとそっかそっかーと嬉しそうに笑った。

『ナイショにしてね?』
「なんでだ?」
『その、恥ずかしいから』
「いいと思うけどな!ラブソングみたいで」
『なっ!?』

奏がボンッと顔を赤くした時にスタジオのドアが開いた。
そこには泉と嵐がいた。
2人の様子に泉は眉間に皺を寄せ、嵐はあらあらと楽しそうに笑った。

「ちょっとぉ、2人とも何してんのぉ」
「ああ、奏がラブソんぐっ」
「ラブソング?」
『なななんでもないよ!!!』

奏はレオの耳元で絶対ナイショと言って、塞いでいたレオの口から手を退けた。
そして奏は立ち上げていた音楽ソフトを閉じ、ポスター作成画面を立ち上げた。

『それより見て!ポスター作ったの!』
「あら、すごく良いじゃない」
「へぇ、あんたにこんな才能があったとはねぇ」
『あとは衣装完成したら、3人とも写真撮らせてほしいの。そしてこのポスターにいれれば完成!』
「ふぅん。衣装は出来そうなの?」
『泉くんのはできたよ!今はなるくんの作ってるところ!
あ、泉くん1回着てみて!動きにくいところとか直すから』

奏は泉に衣装を渡すとキッチリと着こなす泉。
想像以上にかっこよく着こなす泉に思わず、おおっと感動してしまった。

「この衣装のデザインどうしたの?」
『お師さんにデザインしてもらったの!』
「お師さん?」
『斎宮宗さん!』
「ああ、シュウから受け取ったあのデザインか!」
「あんたいつの間に斎宮と知り合いになったの…」
「奏ちゃんって意外と顔が広いのねぇ」
『れおくんの分も作るから後で採寸させてね』
「任せろー!」

泉に修正箇所を言ってもらったあとに、レオの採寸をやった。
そして3人がレッスンをしている間に嵐の衣装を縫っていると奏の携帯が鳴った。
奏は携帯に表示されていた名前を見るとすぐに電話に出た。

『もしもし、ミカちゃん、どうかしたの?』
「あ、奏ちゃん?お師さんが奏ちゃんの作ってる衣装のこと心配しとったから一応報告しとこーと思って」
『ふふっ、ありがとう。ちょっと教えて欲しいところがあるから明日伺いたいんだけど、明日お師さんっているかな?』
「ちょっと待っててなぁ、聞いてみるわぁ」
『うん、ありがとう』
「お師さん明日もいるみたいやわぁ」
『あ、じゃあ明日放課後に行くって伝えて欲しいな』
「任せときぃ。奏ちゃんあんまり無理せんようにね」
『うん、ありがとね。それじゃあね』

通話を終えると休憩をとっていた泉と目が合った。
奏はタイミングいいなぁと思いながら、明日の練習は遅れて参加することを伝えた。

日が暮れて練習が終わり、奏達は帰るために廊下を歩いていると帰宅する真緒とばったり会った。
真緒は泉達に会釈をすると奏に話しかけた。

「今から帰りか?」
『うん、そーだよ』
「なら一緒に帰るかー」
『うん。あ、まーくんに渡すものあるんだよね』
「ん?なんだ?」
『後でね。あ、じゃあ私はここで。今日もお疲れ様でーす』
「気をつけて帰れよー」
『うん!じゃあね!』

奏と真緒が帰路に着いたのをじっと見ている泉に嵐はクスッと笑った。

「泉ちゃん、奏ちゃんのこと気になるの?」
「はぁ?そんなわけないでしょ。アイツは妹みたいな存在で」
「そういえば奏のやつラブソング作ってたんだよなー」
「…は?」
「あらやだぁ♪奏ちゃん恋してるのね♪」
「恋しなくても王様だってラブソング作るでしょ」
「わはは!オレは天才だからな!」

ツーンとした表情で歩き始めた泉に嵐はあらあら素直じゃないんだからと思いながら笑っていた。


奏と真緒は歩いて帰りながら、話していた。
荷物置いたら真緒の部屋に行ってもいいかと聞いたところ、いいよと許可を貰ったので、奏は家に着くとパソコンを持って真緒の家を訪ねた。
真緒の妹と少し話した後に真緒の部屋に入ると奏はパソコンを立ち上げた。

『まーくん、スマホ貸して』
「おう、これでいいか?」
『うん、ちょっと待っててね』

奏は真緒の携帯とパソコンを繋いで音楽データを送った。
データをダウンロードするとはいっと真緒に携帯を返した。

「ん、なにしたんだ?」
『まーくんがお願いしたものいれたの』
「マジか!ありがとな!!聞いてもいいか?」
『うん。歌詞は、まーくんがつけて』

真緒の携帯から流れる曲はポップな曲調で真緒は楽しそうに音を聞いていた。
どうやら気に入った様子だった。
聞き終わると真緒は奏に手招きをした。
奏が真緒に近付くと手を引きギュッと抱きしめられた。
突然の抱擁に奏は驚き固まってしまった。

「俺、この曲好きだ。本当ありがとう」
『うん、どーいたしまして』

お互い間近で目が合うと、真緒はごめんっ!って言ってパッと離れた。
奏は真緒から離れたあとも胸の高鳴りが暫く治まらなかった。

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