追憶.優しいツンデレ
14
奏は昨日の真緒からの抱擁を思い出しては、悶絶しそうな気持ちを抑えることに必死になっていた。
朝会った時も、教室で隣の席に座っている時も終始そわそわしている奏に真緒は首を傾げていた。
朝から眠た気でぽやぽやしている凛月も奏の様子がおかしいことには気付いていた。

「…まーくん、奏となんかあった?」
「ん?いや、別に何も…あ」
「その様子だと何か合ったみたいだねぇ」
「いや、でも違うかもだし…」

うーん。と考え始めた真緒。
そんな真緒を見ながら、凛月はふぁあふっと可愛らしい欠伸をした。

奏の様子がおかしいまま、放課後になり真緒が話しかける間もなく、奏はいそいそと荷物を持って教室を出ていった。
真緒は、避けられてんのかな。だとしたら結構ダメージでかいんだけど。と思いながら大きくため息をついた。


奏は授業が終わってから手芸部の部室にいた。
衣装作りでわからないところをお師さん、もとい斎宮宗さんに教えてもらいに来たのだ。

『あ、なるほど…こうするんですね』
「やはり君は見込みがあるね」
『お師さんが優しく教えてくれるからですよ〜』
「ふんっ、当然なのだよ。ところで目の下にクマができているようだから、今日は早く帰るといい」
『はーい。ありがとうございます』
「んぁ?奏ちゃん帰るん?」
『うん、スタジオにも顔出さなきゃだし、今日は帰るね』
「そか、また連絡するわ〜」
『ふふっ、待ってるね。お師さんありがとうございました!失礼します!』

奏は衣装を大事に抱えて手芸部の部室をあとにした。
いつものスタジオについて、ひょっこりと顔を覗かせると、今日は1人で練習している泉くんと鏡越しに目が合った。

「何してんの」
『ふふーん、泉くんこれ着て〜!』

昨日試着してもらってから修正した衣装を手渡すと、衣装を広げた泉がふーんと品定めするように衣装を見たあと、上着だけ羽織った。

「昨日のところ改善されてる…」
『どう?』
「悪くないんじゃない」
『えへへっ、やったー!』
「奏」
『なぁにー?』
「…ありがとう」
『ふふっ、どーいたしまして!』
「あんた無理したんでしょ、クマできてるよぉ」
『今日はいっぱい寝るから大丈夫だよ!』
「そう、ならいいけど。気をつけなよねぇ」

普段ツンツンしている泉だが、2人きりの時はいつもより少しだけ優しい事に奏は気付いていた。
少しは心を開いてくれてるのかな〜なんて思いながら、奏は嬉しそうに笑った。

その後、泉はダンスレッスンをし、奏はスタジオの隅っこで嵐用の衣装を作成していた。
泉がダンスレッスンの区切りがいいタイミングで奏の方を見ると丸まった体制で寝転んでスヤスヤと眠っていたことに気付いた。

「奏、起きて。こんな所で寝てたら風邪ひくよぉ」
『んぅ…あと、5分…』
「はぁ…5分だけだからねぇ?」

泉は丸まって寝ている奏の隣に腰を下ろし、片手で奏の頭を撫でながら、水を飲んでいた。

「…ほら、起きて。5分経ったから」
『ううっ…おはよぉ…』
「はい、おはよう。着替えてくるから、あんたは帰る準備しな」
『はぁい…』

寝ぼけ眼の奏はのろのろと動きながらなんとか帰り支度をすると、着替えてきた泉が戻ってきた。

「仕方ないから、今日は送ってあげる」
『んー…?1人で帰れるよ?』
「…今日、俺バイクだけど?」
『わーい、お兄ちゃん送って〜』
「本当調子良いよねぇあんた」

クスリと笑う泉に奏は目を擦りながらも着いて行った。
その日は泉に家までバイクで送り届けてもらったのであった。

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