追憶.疲弊
17
「奏、おーい、奏」
『な、なぁに?』
「ボーッとしてたけど、大丈夫か?」
『うん、大丈夫』
「最近顔色悪くないか?」
『そう、かな?きっと気のせいだよ』

真緒の指摘通り、最近奏の顔色は良くなかった。
というのも、あのチェックメイト以降もKnightsはドリフェスを行い続けた。
しかし投票数が次第に減ってきていることが数値として表れ始めた事にいち早く気づいたのは奏だった。
レオの曲はすごい、天才だ。
だけど、ドリフェスで投票するのは学院の生徒。
あれだけ、沢山のユニットに勝利をしてきたのだ。
Knightsをよく思わない生徒は多くいるだろう。
投票数が減っていくということは、レオの曲も評価されないのと同じだ。
近頃のレオの様子もおかしかった。
レオも泉も、サポートをしている奏もそれぞれ苦しんでいた。

奏に至っては、元チェスの人達に声をかけられることが多くなった。
あれだけ堕落しきっていた人達は、Knightsにいても勝てない。俺らをサポートすべきだ。と主張し、何度も絡んできた。
絡まれている時に偶然通りかかった知り合いに助けて貰って何とか逃げている日々が続いている。
体力だけではなく、心労もたたって奏は正直疲弊していた。

「奏ちゃん、そろそろ俺らのことサポートしてくれる気になった?」
『…なってない、です』
「何で?アイツらと居ても勝てないよ?」
「あの2人のどっちかと付き合ってんの?」
「ヤってんじゃね?」
『腕離してくださいっ』
「いいじゃん、俺らとも仲良くしようよ」
「あんた達、何やってんの」
「うわ、瀬名だ」
「またね、奏ちゃん」

絡んできた人達は、泉が現れると逃げるように去っていった。
泉とレオには見られたくなかったのに、見られてしまったと奏は俯いてしまった。

「今までもこうやって絡まれてたわけ?」
『…うん』
「何で相談しないの」
『変に心配かけたくなくて』
「何か起こってからだと遅いでしょ、奏のこと守るぐらいはさせてよ」
『泉くんには私よりも…レオくんのこと見てあげて欲しいな。最近特に辛そうだもん』
「れおくんはもちろん心配だけど、奏のことを心配しちゃだめなわけ?」
『そんな事ないよ』
「じゃあ、大人しく俺に守られてよね」
『…泉くんも、辛いときとか、相談してね?』
「うん、わかった」

奏は泉に優しく頭を撫でられると、泣きそうな表情をして顔を上げた。
そんな奏を抱きしめようともう片方の腕を伸ばした時、横から奏は腕を引っ張られそちらに体を預ける形になった。

「…くまくん」
「セッちゃん、うちの子がごめんねぇ。あとは俺に任せて」
『りっちゃん』
「まったく、まーくんと言い、奏と言い本当世話が焼けるよねぇ」
『あっ、泉くん、さっきはありがとう、じゃあね』
「ほら奏行くよ」
『まって、りっちゃん、その引っ張り方転ぶからぁ!?』
「ふふふっ、その時は受け止めてあげるねぇ」

泉は抱きしめてあげれなかった腕を下ろすと、2人が去っていった方向をじっと見つめた。

「幼馴染、ねぇ…」

あの目はただの幼馴染の目じゃない。
どろりとしたこの感情を、俺は知ってる…。
あの目は執着している目だった。
泉は小さくため息を着くと、踵を返して歩き出した。

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