追憶.友人
18
近頃、練習の鬼と化した斎宮宗がいる手芸部、Valkyrieの城になかなか足を踏み入ることができなった。
奏は恐る恐るドアをノックすると、ドアがゆっくり開いた。
そこには練習着に着替え終わっているValkyrieのメンバーがいた。

『ミカちゃん、宗さん、なずなさん』
「鈴谷か、入り給え」
『失礼します』
「奏ちゃんどうしたん?お師さんに何か聞きたいことあったん?」
『ううん、最近ダンスレッスンやってるって聞いて、その…差し入れ作ってみたんだけど…』
「ふん、レモンのはちみつ漬けか。悪くないね」
『よかったぁ…!』

宗の言葉にパッと笑顔になった奏。
最近暗い表情が多かった奏が笑うと宗もつられて微笑んだ。
みかとなずなは久しぶりに見た宗の笑みに顔を見合せクスリと笑った。

『差し入れ渡せたので失礼しますね』
「鈴谷」
『どうかしました?』
「偶にでいいから顔を出し給え」
『ふふっ、わかりました。それじゃあ失礼します』

奏は手芸部の部室を後にし廊下を歩いていると曲がり角で人にぶつかった。
反射的に謝り、相手を見るとクラスメイトだった。

『ごめんね、遊木真くん』
「ぼ、僕のこと覚えてたの?」
『え、うん。クラスメイトだし』
「そっか。鈴谷さんはクラスで人気者の衣更くんと仲良しみたいだし、僕みたいな存在感ないやつのことは覚えてないのかと思ってた」
『うん?存在感ないっていうより、わざと存在感なくして過ごしてるよね?』
「えっ」
『君でしょ?ゆうくんって』
「な、んで、その呼び方」
『Knightsの瀬名泉くんと仲良し?だから』
「げぇっ、泉さんと!?」
『そこまで嫌な顔するって…泉くん何したの…』
「あの人には昔から追い回されるし、つっかかってくるから」
『なにそれ、おもしろそう』
「おもしろくないからね!?」

ふふっと奏が笑うと、真に優しい目で見られていることに気付いた。

『えっと、なに?』
「あ、いや。最近暗い表情だったから」
『…あー、うん。ちょっと、辛い事あって』
「あっ、ごめんね!話したくなかったら無理して言わなくていいからね!」
『ううん、気にしてくれてありがとう』
「いやいや僕は何もしてないから!あ、そうだ!」
『ん?』
「この後時間ある?」
『今日は練習ないから…うん、あるよ』
「じゃあ、ついてきて!」

真に案内されたのはゲーム研究部の部室だった。
そこには色々なゲームが転がっていた。
よかったら、ゲームして憂さ晴らししようよ!と言われ、コントローラーを渡された奏は真の優しさにちょっと泣きそうになった。

『ふふっ、ゲーム久しぶりかも』
「鈴谷さんはゲームしたりするの?」
『鈴谷さんじゃなくて、奏でいいよ。』
「それじゃあ、奏ちゃん」
『うん、ありがとう。ゲームは比較的好きだよ。…あ、これやりたい』
「じゃあそれやろう!」
『ゆうくん強そう』
「うっ、その呼び方は、泉さん思い出すんだけど」
『ふふっ、じゃあ、これからもゆうくんって呼ぼう』
「奏ちゃんひどい!」
『あははっ』

奏は久しぶりに何も考えずに笑って過ごせる時間を送ることが出来た。
その日以来、クラスにいても遊木真に話しかけることが多くなったのであった。

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