追憶.中学の日常
02
4月にクラス替えがあってから、あっという間に時は過ぎ去った。
奏は授業を受けつつ、偶然にもくじ引きで隣の席になった幼馴染の真緒を時々盗み見していた。

『(真剣な顔してる…かっこいいな…)』

再びチラリと盗み見した時にバッチリと真緒と目が合ってしまった。
真緒は一瞬先生を見た後に再度奏に視線を向け、どうした?と口パクで聞いてきた。
奏は軽く左右に首を振り、赤くなった顔を隠すように少し大きいカーディガンの袖で口元を隠した。
真緒は何だ?と思いながら首を傾げた時に、なんとなく奏が今日着ているカーディガンに違和感を覚えた。

授業が終わり、奏が机の上を片付けていると、隣の真緒が「なあ、奏」と声をかけてきた。

『なぁに?』
「今日着てるカーディガンって、もしかしてりっちゃんの?」
『うん、よくわかったね』
「なんか肩周りとかデカいなって思って」
『昨日の夜ね、りっちゃんに会った時に寒いって言ったら、これ着ていいよって貸してくれたの』
「え、夜に会ったのか?」
『うん、りっちゃんが家に遊びに来てたの』
「へぇ」
『その時に学校に着ていきなよって言われたから、今日はこれ着てきたの』

奏がそう言うと真緒はふぅんと言いながら、何を考えているかわからない、表情をしていた。

『まーくん、どうかした?』
「いや、なんでもない。そういえば次は体育だったよな」
『今日、長袖忘れたから見学したい…』
「この時期奏からしたらまだ寒いだろ」
『うん、でも体操袋開けたら半袖しかなかった』
「仕方ねぇなあ。俺の貸してやるから授業出ろよ?」
『そしたらまーくんが寒いじゃん』
「俺はこのぐらいの気温なら運動したら暑くなるし平気」
『まーくん、ありがと』
「どういたしまして」

その日の体育は真緒の長袖の体操服を借りて、半袖の上から長袖を着ていた。
仲の良い友達からは今日は衣更じゃん!なんて言ってからかわれた。
最近同じクラスになって、真緒に好意がある女の子からは睨まれたが、奏は気にしないように視線を別の所へやった。
真緒と凛月と幼馴染を昔からやっていれば日常茶飯事な出来事のため、だいぶ慣れた。
とはいえ、あまり心地のいいものではないけども。

体育は男女別のバスケだった。
仲の良い友達と同じチームになり、試合が始まる。
「はい、パース!衣更〜」なんて友達が大きな声で言うから、あちこちから視線が刺さった気がした。
奏は投げられたボールを受け取りゴールを決めると、ちょうど試合終了の音が鳴った。
するとパスを投げてきた友達が抱きついてきた。

「ナイスシュート!衣更♪」
『もー、大声で衣更って呼ばないでよ〜』
「あんたらカップルみたいなもんだしいいじゃん♪」
「えっそうなの!?真緒くんと付き合ってたの!?」
『ち、ちがっ!この子が勝手に言ってるだけだよ』
「ほら、奏!ダーリン見てるよ」

友達が指さした先には真緒がいて、バッチリと視線があった。
無視するのも悪いなと思った奏が小さく手を振ると、真緒はニッと眩しい笑顔を見せてくれた。

「いいなあ、あんなかっこよくて優しい真緒くんが幼馴染なんて」
「羨ましいぞ!このこの〜」
『まーくんはみんなに優しいじゃん?』
「まあ、そーだけどー。やっぱり幼馴染って響きが羨ましい!」

和気あいあいと過ごしたことを、その日の帰りに、一緒に帰った真緒に伝えると、真緒はとても優しい表情で奏の話を聞いていた。

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