追憶.後悔
20
fine対Valkyrieのドリフェス以降、fineによるユニット討伐が始まった。
それと同時に夢ノ咲学院は生徒会が支配力を増した。
誰もが生徒会に歯向かうことが出来なくなった。
奏は校庭の隅っこで大の字に寝っ転がってぼーっと空を見上げている人物の顔を覗き込んだ。

『れおくん』
「奏」
『何見てるの?』
「んー、空、かな」
『私もれおくんと同じようにしたら、同じ景色、見えるかな』

そう言ってレオの隣に寝転んだ。
レオは憂い帯びた表情で隣に寝転んだ奏の方を顔だけ向けた。

「見ない方がいい景色もあると思うぞ」
『ふふっ、そうかもねぇ。でも、少しだけでも共有したいんだ』
「そっか」
『ねぇ、れおくん』
「なんだー?」
『手、握ってもいいかな』
「仕方ないな〜」

久しぶりに見たレオの笑顔に奏は泣きそうになりながらも、レオの手を握り、目を瞑った。
日差しは暑かったけど、風は心地よかった。
そして、手から感じるレオくんの温もりもまた心地よかった。
暫くすると奏はすぅすぅと眠りこんでいた。
レオは体を起こすと、寝ている奏の頭を撫でながら「ごめんな」と呟いた。

「あ、いた!れおくん、何して」
「セナ、しーっ!」
「ん?…奏寝てるの?」
「ああ。無理、させちゃってたよな」
「まぁ、奏のおかげで、連日ライブできたようなものだしね」
「セナ、俺からのお願い、聞いてくれる?」
「はぁ?改まって何?」
「奏のこと、よろしくな」
「は?え、ちょっと、れおくんどこ行くの?!」
「ごめんな、セナ、ごめんな、奏」

ごめんと言って背を向けたレオはそのままどこかへ走り出して去っていった。
それ以来、レオは学院には足を運ぶことはなかった。
レオの心は完全に壊れてしまっていたのだった。

あの日、奏はふわふわとした感覚で意識を取り戻すと、泉に抱き上げられて運ばれていた。
辿り着いた場所は保健室で、保健医の佐賀美先生は不在だった。

「あ、起きた?」
『泉くん、あれ…れおくんは…?』
「奏のことよろしくって言ってどっか行っちゃった。まったく、どこに行ったんだか」
『…どこにも行かないで』
「…うん。まだ傍にいてあげるから、もうひと眠りしなねぇ。あんたまだ顔色悪いから」
『ありがとう、おにい、ちゃん…』

レオと手を繋いで寝転んでいたあの時、眠らなければ。
レオの手を掴んでいれば。
こんな未来ではなかったかもしれないと、後に後悔する事になった。

レオが不登校になってからも、レオがいつでも戻って来れるようにと、Knightsは活動を続けた。
レオが不登校になる少し前には嵐が正式加入をしてくれた。
そして、一緒にチェックメイトの舞台に立った、凛月もまたKnightsの一員になった。
レオが居なくなることによって、泉が1人にならないかを懸念していた奏は嵐と凛月の存在により、少しだけ安心した。

奏は学校へ来ない天才達、宗とレオの家を時々訪ねた。
しかし本人達にはなかなか会うことは出来なかった。
会えない日が続くたびに傷口から血が流れるようにじわじわと負の感情が奏を占めていった。

奏はボーッと外を眺めることが多くなった。
噴水の広場に腰を下ろし、ボーッと水を眺めていると、影で誰かが目の前にやってきたのがわかった。

『…零くん』
「よお、奏。顔色悪いじゃねぇか」
『そうかな。零くんこそ、こんな日が昇ってる時に外にいて大丈夫なの?』
「少しならな」

そう言って奏の隣に腰掛けた零に奏は首を傾げた。

『どうかしたの?』
「世間話でもしようかと思ってな」
『世間話ねぇ…。ねぇ、零くん』
「何だ」
『五奇人って誰も何も悪くないのに、どうして悪役に甘んじてるの?』
「…最小の犠牲だから、かな」
『でもっ、そんなの、五奇人にされた人が報われないじゃんっ…!ちゃんとっ、努力してたのにっ…!!』
「そうだな」
『なんで、レオくんや宗くん、他の五奇人の人達…努力してた人達が苦しまなきゃいけないのっ、こんなのおかしいよ』
「奏が気に病む必要はねぇよ。と言っても気にするんだろうけどな」
『…ごめんなさい。八つ当たりした』
「辛いなら泣け。泣いて涙と一緒にすべて吐き出しとけ」
『っ…残りの、五奇人は…日々樹先輩だよね』
「そうだな。…もうすぐこの地獄も終わる」
『この黒幕は、天祥院英智先輩だよね?青葉先輩は別かもしれないけど、二枚看板の先輩方はただ契約書で繋がってるだけだよね』
「そこまで気付いてたのか」
『宗さんが倒される前に気付きたかったよ。私はいつだって、気付くのが遅くて、気付いた頃には救えない』
「そうだな、あと1つ。お前は見落としてる部分がある」
『…見落とし?』
「お前は自分の事になると疎い」
『えっ?』
「俺や斎宮宗、月永レオ。天祥院が一目置いてる存在と関わりのある鈴谷奏が、目をつけられないはずがない事に気付いていない。十分に気をつけとけ。じゃあな」
『れ、零くんっ。ありがとう』
「おう、気を付けろよ」

ヒラヒラと手を挙げそのまま去っていく姿はとても眩しかった。

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