追憶.修学旅行1
03
テスト期間も終わり、中学3年生の行事といえば!で代表的な修学旅行がやって来た。
1、2日目は京都を散策し、3、4日目は大阪で某遊園地と散策後に帰宅というスケジュールだった。

基本的に男女混合の班行動を求められ、奏を含む女子3人は真緒を含む男子3人と同じ班になった。
特にいざこざもなく、男女6人とも仲良くやれている班だった。
出発のバスの席は女子2人の熱い希望により、奏と真緒が隣同士の席となった。
寝不足気味な奏がうつらうつらしていると、「奏」と呼んだ真緒は奏の腕を引っ張り自分の肩を枕がわりにさせた。

「パーキング着いたら起こしてやるから」
『ありがと、まーくん』

真緒の腕にくっつくように頭を乗せてスヤスヤと寝始めた奏と奏を起こさないように逆側の手で音楽機器を触る真緒。
そんな2人を同じ班のメンバーがニヤニヤとした表情で見ていた。
そして真緒に好意を持っている別の班の女の子はその光景を面白く無さげに見ていた。

車が停車し、ちょうどパーキングに着いた頃、奏はタイミングよく目を覚ました。
寝る前より頭が重いと感じた奏が顔を上げると、すぐ近くにスヤスヤと寝ている真緒の顔があった。

『まーくん』
「…んっ」
『まーくん、パーキング着いたよ』
「あれ、俺寝てた…?」
『おはよぉ』
「ん、おはよ」

眠たげな目を擦る真緒が可愛くて、奏は思わず笑ってしまった。

『まーくん、飲み物買いに行こうよ』
「そうだな、まだバス移動だし、買いに行くか」
『あれ、みんなは?』
「真緒くんと行ってきなー、私はもう買っちゃった」
「真緒、お金渡すからついでにじゃがりこ買ってきてくれー」
「仕方ねぇなあ」

結局2人で売店に向かった。
同じ学校の人達が沢山いるなあと思いながら、奏もレジの列に並んだ。
「奏」と名前を呼ばれ振り返ると先にお会計を済ませた真緒がソフトクリーム片手に立っていた。

『あ、いいなあ』
「そこに売ってたぞー」
『私も買う〜』

アイスの種類を見ていると真緒が買ったバニラ以外にストロベリーとチョコレートもあった。
迷った挙句、ストロベリーを買った奏は真緒の元へ戻ってきた。

「ストロベリーにしたのか」
『バニラと迷ったんだけどね』
「じゃあ1口食べるか?」

ん、と言い、目の前に差し出されるソフトクリーム。
いいの?と聞けば、いいよと返ってきた。
奏は1口貰うと、自分のストロベリーを真緒に差し出した。
どーぞと言えば真緒が1口ストロベリーソフトクリームを食べた。

『(あ、関節キスだ…)』

食べさせてから気付いた奏は少しだけ照れてしまった。
真緒はそんな奏にどうかしたか?とキョトン顔で尋ねた。
何でもないよと言えば手を差し出され、用も済んだしバスに戻ろうぜと言われた。
奏は少し照れながらも差し出された手を取った。
ソフトクリームを食べながら手を繋いでバスに戻ると、それを車内で見ていた同じ班の子達がニヤニヤした表情でからかってきた。


1日目の長距離移動が終わり、京都を軽く散策した後、ホテルへとやってきた。
泊まる部屋は同じ班の同性が同室となっている。
夕食とお風呂を済ませ就寝時間まで2時間はある。
同室の子はスマホで誰かと連絡とったあとに笑顔で話しかけてきた。

「今からゆーや(同じ班の男子)のとこ行かない?」
『え、男子部屋って女子行っちゃダメじゃなかった?』
「バレなきゃ大丈夫♪それに、他の班の子達も行ってるし」
「楽しそうだし行く〜!奏も真緒くんのとこ行こうよ」
『2人とも行くなら行こうかなぁ』

先生の目を盗み、同じ班の男子部屋に行くと、真緒が驚いた顔をしていた。

「え、何でここに」
「俺が誘ったー」
「UNO持ってきたよ!しよー」
「さっすが!エリちんなら持ってきてるって信じてた!」
「ゆーや調子良すぎ!」
「リクも真緒もやるだろー?」
「おう、やるやる」
「はあ。これやったら先生来る前に帰れよー」
「真緒くんって心配性だよねー」
「奏も、こっち来いよ」

皆が座れる椅子はないため、奏は真緒が寝るベッドに腰かけた。
皆でUNOをしていると、部屋のチャイムが鳴った。
先生の見回りだった。
時間を見るとまだ就寝時間までは1時間ほどあった。

「やっべ、とりあえずエリちんたち隠れて」

ホテルのクローゼットに女子2人が隠れ、奏はオドオドしていると真緒がベッドに引きずりこんだ。
真緒は男子の平均身長には届いていないが、女子からすれば大きかった。

「少しだけ我慢してくれ」
『うん』

ベッドの中で奏をギュッと抱きしめながら真緒だけ顔を出して寝たフリをする
先生はちらりと寝ている真緒を目視で確認し「お前らも衣更みたいに早く寝ろよー」と言い、そのまま部屋を出ていった。

張り詰めた緊張の糸が切れるように皆してため息をついた。
女子2人は恐る恐るクローゼットから出てきた。
奏もぷはっと息をするようにベッドから顔を出すと思ってた以上に真緒の顔が近くにあった。

「奏大丈夫か?」
『うん、ちょっと息苦しかっただけ』
「そっか」

顔が近いまま笑いあっていたらパシャリとカメラ音が響いた。

「ちょ、お前ら何撮って」
「これで付き合ってないとか有り得ないよねー」
「真緒って奏には特に優しいよなぁ」

ベッドから起き上がった奏と真緒
真緒はくしゃくしゃになった奏の髪を手櫛で整えつつ写真を撮った2人に抗議をしたが、写真は消してくれないようだった。

就寝時間になる前に遊びに来ていた女子達は部屋に帰っていった。
そして、男子3人はそれぞれの寝床に寝転んでいたが、まだ夢の中へは旅立ちはしないようだった。

「真緒〜」
「ん?どうした?」
「さっき奏抱きしめてただろ?どうだった?」
「どう?」
「柔らかかったとかいい匂いしたとか感じることあるだろ、男なら」
「んー、でも奏とは小さい頃から一緒だしなあ」
「俺も奏抱きしめて庇いたかった〜。前から思ってたけど、あの子意外とおっぱいでかいよな」
「揉むと育つっていうし、真緒揉んだことある?」
「なっ、あるわけないだろ!?」
「じゃあ、キスは?唇奪った?」
「してないから!」
「真緒顔真っ赤。おもしろい」
「もう、からかうなよ〜」

男子部屋では、3人が寝付くまで真緒が同室2人に散々からかわれていた。

「奏いいなあ。さっき真緒くんに抱きしめてもらっちゃって」
「私も抱きしめられたい!真緒くんなら色々と差し出すのに!」
「あはは、差し出すって」
「それでどうだった?ドキドキした?」
『前より体が鍛えられてたなあって』
「え、どういうこと?」
「ほら、真緒くんも奏も距離感おかしいから抱き合うのとかよくあるんじゃない?」
「なるほどね、納得」
「私もあんなイケメンで優しい幼馴染が欲しかった!」

女子部屋では、奏が同室2人に羨ましがられていた。

戻る / top