追憶.花火大会
06
夏の風物詩と言えば真っ先に思いついたのが花火だった。
奏は勉強の息抜きに凛月に連絡すると想像通り連絡がつかなかった。

『りっちゃんとまーくんと花火行きたいんだけどなぁ』

でもきっと、りっちゃんは人混み苦手だし、まーくんも受験勉強で忙しい。
だから誘うのは気が引けた。
今年は花火諦めかなぁと思っていると、珍しい人物から電話がかかってきた。

『もしもし。れおくんどうしたの?』
「奏!花火見に行こう!セナも一緒に!」
「はぁ!?ちょっと俺は行かないからねぇ!!?」

レオからの電話なのに泉の声も聞こえた。
きっとまた2人で練習してるんだろうなと思い、微笑ましくて思わず笑ってしまった。

『花火っていつの?』

元気な声で「今日!」と答え続けて16:00に公園に迎えに行く!って一方的に言われて電話が切れた。
『強制参加じゃん…』なんて呟いてみたけど、ふと鏡を見ると嬉しそうな表情をしている自分が映っていた。
15:50頃に公園に行くとまだ来ていなかった。
夕方とはいえさすが夏だけあって太陽は元気に日差しを照らしてくる。

『ううっ…暑い…』

奏はイヤホンで音楽を聴きながらベンチに座っていただけだったが、このままでは気分が悪くなりそうだ。
とりあえずスポーツ飲料を買って飲んではいたが待ち人は来る気配がない。
時刻を見ると16:10を指していた。
そういえば泉くんと初めて会ってた時、れおくんに約束すっぽかされてたなあなんて思い出し、とりあえず電話をかけようとスマホを見た時、日差しに影が差した。
顔を上げると完全防備をした泉くんが立っていた。

『えーっと、泉くん?で、あってるよね』
「どう見ても俺でしょ」
『サングラスまでかけてたから一応確認しただけだよ』
「それよりも日傘すらささないなんて将来シミとかできても知らないよ」
『う、それは嫌…それはそうとれおくんは?』
「あいつが時間通りに来た試しほとんどないから」
『あはは、やっぱり。泉くん電話で行かないって言ってたけど、もしかして心配して来てくれたの?』
「勘違いしないでよねぇ、たまたま予定が空いたから寄っただけ」
『ふふっ、ありがとう』

日差しを完全防備した泉は隣に腰かけてきた。
どうやら一緒に待ってくれるみたいだ。

『泉くんってすごく綺麗だよね』
「…はあ?」
『あ、姿勢の話。お顔も綺麗だと思うけど、立ち方とか綺麗だなあって思って』
「まあ、そういう仕事してたから」
『仕事?』
「…はぁ。わからないならいい。奏は歌好きなの?」
『うん、大好き!だから音楽に関すること学べたらいいなって思ってる!あ、でも音楽だけじゃなくって、もっともっと色んなことが知りたいとも思ってる!』
「ざっくりとしてるねぇ」
『泉くんは?夢ノ咲って色んな学科あると思うけど、んー、アイドル科?』
「そうだよ。舞台で歌って踊るために、お客さんの笑顔を間近から見るためにアイドルになった」
『すごいね。私なんてざっくりしか言えないのに!…うん、決めた』
「…なにを?」
『ふふっ、まだナイショ』
「はあ?まあ、別にいいけどぉ」
「おーい!セナ!奏!」
「ちょっとぉ、俺を30分も待たせるなんてどういうこと」
「ごめんごめん!奏もごめんなー?」
『うん、泉くんがお話付き合ってくれたから大丈夫だよ』

奏はベンチから立ち上がると泉の方を振り返った。

『泉くんも行くよね?』
「えぇ、人混み行きたくないんだけどぉ」
『行かないの?』
「はぁ。…わかった、行くからその表情やめて」
『やったー!れおくん泉くんも行くって』
「ん?元々連れてく予定だったぞ?」
『あはは、れおくんって強引だよね…』

花火大会が開催される場所まで向かうと、かなり人がいた。
あまりにも多くて奏はレオや泉を見失わないように心掛けてはいたが、人混みにもまれ流されそうになった時に、誰かが手を掴んで引き寄せた。
顔を上げると呆れた表情をした泉がいた。

「まったく。あんたまで逸れないでよ」
『予想以上に人多くて、流されそう…』
「逸れたら容赦なく置いてくから」
『でもちゃんと引っ張ってくれたし、泉くん優しいね。なんだかお兄ちゃんみたい』
「えぇ、こんな手のかかる妹いらな〜い」
『あ、あそこれおくんいた!』
「ちょっ、引っ張らないでよ、あーもう!ほら行くよ」

泉のおかげでなんとかレオを回収し、人混みから抜け出した。
途中出店で買った物を持って、人通りが少ない所まで行き、腰を下ろした。

「結構離れたとこに来たけど…」
『ここ意外と見えるんだよー』
「奏何買ったんだ?」
『たこ焼きと焼きそばとイカ焼きと焼きとうもろこし』
「明らかに食べすぎでしょ」
『え、さすがに1人で食べる気ないけど。2人とも食べるでしょ?』
「おお!奏ありがとな!」
「いくらした?お金払うから」
『ううん、いいの。どれも少し食べたかったものだし。それに泉くんと話したら悩んでたこと決めれたからそのお礼も兼ねてる』
「悩んでたこと?」
『ふふっ来年あたりに教えてあげる!だからこれからも仲良くしてね、お兄ちゃん♪』
「こんな手のかかる妹いらなぁい」
「わはは☆セナは面倒見良いからなー!でも、お兄ちゃんというより母親みたいだぞ?」
『あはは、泉くん子持ち似合う』
「ちょっとぉ!全然嬉しくないんだけどぉ!?」

ヒュー…ドーンと花火が打ち上がった。
奏はそんな花火を眺めながら、来年もまた来れたらいいななんてひっそりと思っていた。

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