Lが死んだことを自覚するために私がしなければならないことは部屋中に散らばったお菓子を四十五リットルのポリ袋に捨てることだった。ドーナツ、クッキー、チョコレート、キャンディ、マカロン、キャラメル。そのひとつひとつを袋に入れてしまうと、空っぽになったお皿たちとケーキスタンドだけが残った。これを捨てたらLは困るのだろうな、とまるでLが生きているみたいに思った。
甘いものが好きではなかった私に、Lはそれでもチョコやストロベリーのたっぷりかかったドーナツやクッキーを渡してくる。断る度に不服そうな顔をして口に放り込み、変わってますねと余計な一言を残すのだ。
私たちは食事の趣味は合わなかったし、好きなことも違う。眠る時間も違ったし、頭の中身も違う。それなのに一緒にいた。私が望んだわけではなく、Lが望んだわけでもない。いつからか、そうなってしまった。なんとなく、隣にいた。
Lはとても静かな男だった。声も小さく、驚くことが起きたとしても大きな声で騒いだりもしない。そのうち存在を忘れてしまうのではないかと思うこともあったけれど、忘れるには妙な存在感のある男だった。その存在感はLが死んだあとも色濃く残っていて、その原因が部屋に散らばったお菓子だと思うとやはりひとつ残らず捨てなければいけなかった。
お皿も、ケーキスタンドも、ポリ袋に突っ込んでしまうとテーブルの上はシンプルになった。元の姿を何ヶ月、何年振りかに取り戻したのだ。ポリ袋は重たい。持つとガチャガチャとお皿の擦れ合う音がする。
「そんな偏った食事ばかり、早死するから」
口にいくつものキャンディを詰めたLに私がそう言うと、Lは少し考えた顔をした。
「では、本当にそうなるかどうか。ナマエさん、見届けてください」
LはLが言ったことを覚えていただろうか。きっと、忘れていたかもしれない。覚えていたとしても、そう深く考えて出た言葉ではなかっただろう。だから、Lはたったひとりで戦って、私の見ていないところであっさりと逝ってしまった。Lが最期になにを思っていたのか、誰を思い出したのか。それすら知ることができなくて、ポリ袋を覗いてみる。そんなところを見てもヒントになるものなんてひとつもない。ただ、Lがいた証だけが残されている。私はそれを捨てる。それがあると、私はいつかLがお腹がすいたと言って戻ってくるような気がしてしまう。Lはどこかに出かけているだけだと錯覚してしまいたくなる。
この世からデスノートが消えると、世界に平和が戻った。平和には犠牲がつきものだった。
今、私は私が幸せか分からない。Lは私を見てなんと言うだろう。平和になった世界ではそれを聞く相手もいないのだ。
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甘いものが好きではなかった私に、Lはそれでもチョコやストロベリーのたっぷりかかったドーナツやクッキーを渡してくる。断る度に不服そうな顔をして口に放り込み、変わってますねと余計な一言を残すのだ。
私たちは食事の趣味は合わなかったし、好きなことも違う。眠る時間も違ったし、頭の中身も違う。それなのに一緒にいた。私が望んだわけではなく、Lが望んだわけでもない。いつからか、そうなってしまった。なんとなく、隣にいた。
Lはとても静かな男だった。声も小さく、驚くことが起きたとしても大きな声で騒いだりもしない。そのうち存在を忘れてしまうのではないかと思うこともあったけれど、忘れるには妙な存在感のある男だった。その存在感はLが死んだあとも色濃く残っていて、その原因が部屋に散らばったお菓子だと思うとやはりひとつ残らず捨てなければいけなかった。
お皿も、ケーキスタンドも、ポリ袋に突っ込んでしまうとテーブルの上はシンプルになった。元の姿を何ヶ月、何年振りかに取り戻したのだ。ポリ袋は重たい。持つとガチャガチャとお皿の擦れ合う音がする。
「そんな偏った食事ばかり、早死するから」
口にいくつものキャンディを詰めたLに私がそう言うと、Lは少し考えた顔をした。
「では、本当にそうなるかどうか。ナマエさん、見届けてください」
LはLが言ったことを覚えていただろうか。きっと、忘れていたかもしれない。覚えていたとしても、そう深く考えて出た言葉ではなかっただろう。だから、Lはたったひとりで戦って、私の見ていないところであっさりと逝ってしまった。Lが最期になにを思っていたのか、誰を思い出したのか。それすら知ることができなくて、ポリ袋を覗いてみる。そんなところを見てもヒントになるものなんてひとつもない。ただ、Lがいた証だけが残されている。私はそれを捨てる。それがあると、私はいつかLがお腹がすいたと言って戻ってくるような気がしてしまう。Lはどこかに出かけているだけだと錯覚してしまいたくなる。
この世からデスノートが消えると、世界に平和が戻った。平和には犠牲がつきものだった。
今、私は私が幸せか分からない。Lは私を見てなんと言うだろう。平和になった世界ではそれを聞く相手もいないのだ。