鈴蘭A


オイルに濡れ、てらてらと光る晶の細い指がゆっくりと私の腹部を撫でる。
じかに触れられているわけではないのに、じっくりとほぐされ火照った身体ではたったそれだけのことでもぞくぞくとした感覚が湧き上がる。
未だオイルに濡れていない唯一の場所、足の付け根、下腹部よりも更に下、私の大事なところに向かって晶の手はそろりそろりと下りていく。
その丁寧というよりも焦らすような手つきに早く早くと心が急いてしまう。それでも溶けきっていない理性が、はしたなくねだることを拒んでいた。

「それでは次はここを……解させていただきますね」

そう言って彼の手は未だ濡れていない施術服の上からそろりと割れ目を撫でた。
そこは確かにオイルは塗りこまれていない。塗りこまれていないが、粘着質な水音が耳に届く。
それはオイルではなく私の身体から溢れたもので、彼が服の上から割れ目をなぞり上げる度に服をぬらしていく。
時折ぐっと力をこめられ指が中に入り込みそうになるが、指は表面を撫でるだけで決して中には入れてくれない。
しかしそうやって強弱をつけて割れ目を撫でられることで時折晶の指が秘芯を掠め、そのわずかな快楽に私は大げさなまでに腰を跳ねさせていた。

「おやおや、ここにオイルを塗った覚えはないのですが……ずいぶんと濡れていらっしゃるようで」

「うぁ、ぁ……は、はいぃ」

「それにここに何か……しこりのようなものがございますね?これはじっくりと解したほうがいいかもしれません。幸枝様、こちらは念入りに施術を行い

たいのですが、宜しければ施術がしやすいように足を開いていただけませんか?」

くちゅり。といやらしい音が耳に届いた。羞恥で頬が熱くてたまらないのに、晶は妖艶な微笑を浮かべ足を開けなどと要求をしてくる。
普段ならば恥ずかしくてそんなことなどできやしないが、我慢が効かなくなっている私は晶の言葉に頷くと片膝を立ててそろそろと足を開いていく。
そうして肯定の意を汲み取り手の動かしやすくなった晶は服をめくり上げると、隠すもののなくなったそこが晒される。
晶は器用に片手で割れ目を開いたかと思うと、指の腹を使って秘芯を擦り上げ始めた。
待ち望んでいた刺激に私の身体は大きく跳ね、堪えることもできずに喉を震わせ喘ぎ声を部屋に響かせる。
腰から背中を駆け上がる電流のような快感は普段自分でする時よりも圧倒的に強く、そして期待していたものよりも遥かに上を行っていた。

「んぁあっ!ぁ、あぁ……っん、ふ……ぅんっ!」

「ああ、やはりとてもこっていらっしゃいますね。これは念入りに解さねばなりません。少し失礼いたしますね」

身悶える私と違い平静さを保っている彼はわざとらしくそう言うと、私に背を向けるようにして身体の向きを変える。
具体的に言うならば片手で私の左足を抱え固定したかと思うと、もう片方の手で秘芯をじっくりとなぶり始めたのだ。
オイルと愛液に塗れた指で秘芯を指ではさみ、擦り上げ、つまんで弾き、ぐっと押しつぶす。
今までとは違う圧倒的なまでの快楽に反射的に腰を引こうとする私だったが、晶が足を抱えているためにそれもできない。
そうなれば私は晶の繊細でありながら苛烈な愛撫を受けるしかなく、背中を逸らせながら唇から嬌声を漏らし続けた。

「んあぁっ、ぁっぁあーっ!ぁ……は、ぁ……っく、ん……んんっう!」

「ああ、幸枝様。声は我慢なさらなくて良いですよ。この部屋は防音ですから、叫んでも大丈夫です」

「ふあ!ぁ、あぁっ……ぅ、うんっ!」

与えられる快楽に耐えるため、何かを掴もうと手を伸ばすものの掌はオイルに塗れたベッドの上をすべるだけ。
その間にも痺れるような快感は私の身体を支配していて、私の意思とは裏腹に全身をいやらしくくねらせる。
しかし晶の指は決して私の秘芯から離れず、追尾しているかのように確実に私の秘芯に触れている。
指の腹でこねくり回され背中を駆け上がる快感に腰がわななき、だんだんとこみ上げてくるものに足の指がぴんと伸びた。

「ぁ、あーっ、あぁ、くるっぁ、くる、きちゃう……っ!!」

「ええ、どうぞ」

襲い掛かってくる絶頂感に、何も入っていない密壷がひくついているのが自分でも解った。
腰から脳髄へと駆け上がるぞくぞくとした感覚が全身を支配し、きつく閉じたまぶたの裏で火花が散っているような錯覚に陥る。
頭を真っ白に染めてしまうほどの圧倒的な快楽に押され、背中を逸らせながら荒い呼吸を繰り返す。
そうして高まりに高まりきった快楽が上り詰める瞬間を、まるで針で刺された風船のように破裂する瞬間を、求めていたその時がようやく訪れたのだ。

「んっ、んぅーっ……っ、ぁ、あぁ……っ、んあぁぁあぁっ!!」

求めていた絶頂を得て、びくんと大げさなまでに腰がはねた。
頭が真っ白になったのと同時に一瞬だけ息がとまったかと思うと、太ももが細かな痙攣を起こし、身体がびくびくと跳ねる。
大きく息を吸い込みながらずっと待ち望んでいたものよりも遥かに極上の快楽にとろりと目を細めた。
なるほど、リピーターが多いわけだと酸欠に陥った頭でぼんやりと考える。

「気持ちよく、なっていただけましたか?」

「ん、はい……とても」

「それは宜しゅうございました。しかし幸枝様のここは、まだ満足されていないようですね」

そう言って晶は絶頂を迎えたばかりの秘芯をこねくり回す。その愛撫は敏感になっている秘芯には過剰すぎて、私は不意打ちのように与えられた快楽に

腰を大きく飛び上がらせながら喉を鳴らした。
最早声を抑えようという理性もなく、大げさなまでに身悶えながらも悲鳴のような嬌声を喉からほとばしらせる。

「んうぁあっ、ぁ、ぁあ……っ、は……く、ぅんっ!」

「そんなにお喜びになられて……余程此方へのマッサージは大変お気に召していただけたようですね。私としても嬉しゅうございます」

涼しい顔でそんなことを言いながら、指は赤くぷっくりとした秘芯を何度も指の先ではじく晶。
イったばかりの身体には過激すぎるその攻めに私は全身で打ち震えながらイヤイヤと首を振った。
確かに気持ちいい。気持ちいいが、連続では身体への負担が大きすぎる。過剰な快楽に脳内がスパークしてしまいそうだ。
だが同時についつい手が止まってしまう自慰の時には決して味わうことのできなかった未知の快楽への期待もあった。
知らない快楽への恐怖と期待で胸中を膨らませながら、閉じさせてくれない足の間でうごめく晶の指先のとりこになる。
過ぎた快楽に身体は硬直したまま痙攣を繰り返すだけになり、自然と下腹部に力がこめられていくのを感じながら、やってくる二度目の絶頂を期待するかのよ

うに密壷がひくつく。

「ふあ、ぁあっ!ぁ、あ……っんぁ、あぁっ……ぁああっ!」

既に言葉を紡ぐだけの余裕もなかった。快楽は身体の中で暴れ周り、ひたすらに出口を求めて与えられる快楽を教授している。
どろどろに蕩けた理性は羞恥心を捨てさせ、胸を揺らしながら全身で身悶えつつ、生理的な涙で瞳が潤むのが解った。
オイルに塗れているせいで解りづらいが全身から汗が吹き出ており、興奮し体温が上がった身体は桃色に染まっているだろう。
そうやって全身を支配する快楽に屈服する以外の選択肢を知らない以上、あとは降りかかってくる絶頂という出口を求めて腰を揺らすしかないのだ。
そうして訪れるぐずぐずに溶けた身体を更に追い詰めるような、今まで味わったことのない快感に全身が歓喜に震える。
あまりにも早すぎる絶頂に溢れた涙が頬を伝う。

「ぁ、んっんんーっ、んっ、ぁ……きちゃ、ぁ、んぁああぁっ!!」

呼吸が止まったのと同時に四肢が跳ねた。まるで電気ショックでも浴びさせられたかのような絶頂だった。
連続で与えられた絶頂に身体が一気に重くなり、心地よい疲労感と倦怠感が全身にまとわりつく。
胸を上下させ必死に呼吸を繰り返しつつ、酸素不足の脳味噌は初めて得る多大な快楽に歓喜を覚えていた。
その時点になってようやく晶の指が離れる。散々嬲られた秘芯が余韻でひくついているのが触れずとも解った。
このまま眠ってしまいたくなるほど頭がふわふわしていたが、わずかな水音の後に優しく背中に腕を入れられ上半身を起こされる。

「たくさん汗をかかれたでしょう。どうぞ、此方をお飲みください」

そう言って差し出されたのはストローの刺さったコップだった。背中に手を添えられて僅かに上半身を起こされた後、目の前にあるストローに口をつけてみれ

ばスポーツドリンクの味がする。
一口飲めば意外と自分が喉が渇いていた事実を認識し、喉を鳴らして何度もスポーツドリンクを嚥下した。

「ん、む……あ、おいしい」

「それはようございました。それでは、続きをいたしますが宜しいですか?」

「ぁ……」

その言葉に思わずテーブルに置かれた時計へと目をやる。
まだ30分近く時間が余っていて、既に終わった気分でいた私は晶の言葉を聞き期待に胸が高鳴った。
小さく頷けば再度優しくベッドに寝かされ、彼の細くしなやかな指が私の秘部に添えられる。

「幸枝様が宜しければ私の指だけでなく玩具も使用して施術を執り行わせて頂きますが……いかがいたしますか?」

指先で未だに濡れている割れ目をなぞりながら問いかけ、晶は視線だけで壁に埋め込まれた棚を示す。
つられて棚を見れば確かにそこには様々な性玩具が並んでいた。玩具の相場など知らないが、晶曰く使い捨てなので衛生面なども心配いらないとのこと


しかし玩具には少しだけ恐怖心がある。なので今回はいいと伝えると、晶は気分を害した様子もなく畏まりましたと微笑んだ。

「それでは、失礼いたします」

つぷりと、晶の指先が進入してきた。
細そうに見えた指も中に入れば確かな質量があり、中を傷つけないようゆっくりと進入してくる指にじんわりとした快感を感じる。
指は何度も浅いところで出たり入ったりを繰り返した。そして少しずつ少しずつ、奥へ奥へと進んでいく。
既に愛液に溢れている蜜壷はそれだけでは足りないと晶の指を奥へ奥へと咥え込もうとするのだが、晶自身がそれを許さない。
抜き差しされる際に僅かに指先を折り曲げられたり、まるで感触を確かめるように中をぐるりとかき混ぜたりと、私の反応を楽しむように縦横無尽に指先を動

かしながらも、やがて指先はしっかりと根元まで私の密壷に納まった。

「良い締め付けですね。私の指を食いしめて離そうとしない……熱く濡れてもっと欲しいとねだっているのが解りますか?」

「んぁっ、ぁ……は、ぁん……んっぁあ、あっ、ぁ!」

「ご期待に沿えるよう、私も精一杯施術をさせていただきますので」

たかが指一本、されど指一本。場所は変われど二度の絶頂の後に与えられた快感は私を恍惚とさせてくれた。
晶も私の思考が解っているのだろう。何度も指を出し入れしているうちに私の一番イイところを把握したらしく、指の腹で私のいいところを何度も押し

上げている。
彼の指の動きに合わせて無意識のうちに腰が揺れるが、指はしっかりと入りこんで抜けそうにない。
それどころか二本目が挿入され、中をかき乱すようにしていいところを何度も擦り上げられその気持ちよさに指を強く締め付けてしまう。
しびれるような快感に生理的な涙が溢れ出し、瞳に薄い膜を張り始める。
オイルとはまた違う粘着質な水音が密壷から聞こえて、それに耳を犯されているような錯覚にすら陥り始める。

「んっんぁ、ぁ、ぁあっあ、ぁあんっ、ん……っふ、ぅあっ、あ!」

喉が震え、指の動きに合わせて嬌声がひっきりなしに漏れる。ぞくぞくと背中を駆け上がる快感に身悶える。
そして中をかき混ぜられながら親指で秘芯を押しつぶされた瞬間、私の腰は大きく跳ねた。

「ゃぁんっ!ぁ、ぁあっ!ぁ、それ、つよ……いっ!」

「ご不快のようでしたらやめさせていただきますが」

「ぁ、やぁっあ、ぁあっあ、やっん、やめちゃ、だめ、ぁ、ぁあ……っ!」

中と外を同時に攻め立てられ、更に増大した快感に一際甲高い声が漏れた。
涼しい顔で意地悪なことを言う晶にやめないでと告げれば、更にもう片方の手で乳首を摘み上げられる。
激しくなった攻め立てに太ももが小さく震え始め、部屋中にいやらしい水音と私の喘ぎ声が響く。
与えられる快感に打ち震えながら全身を支配され、胸を大きく上下させながら必死に呼吸を繰り返す。

「少し痛いくらいがお好み、でしたね」

「ひぅっ、あ……っぁあっあ、ぁ……ぁあ、あっ!」

ぴりっと痛みが走る程度に強く乳首を摘まれ、指の腹で秘芯を押しつぶされ、中のイイところを二本の指で擦り上げられる。
絶え間なく与えられる快感に脳みそがぼうっとし始めたかと思うと、だんだんと膨れ上がり絶頂が近づき始めていることを悟った。
それどころかむき出しになり始めた本能が絶頂を求め、指をもっと奥深くまでくわえ込もうと揺れ動き、晶の掌に乳房を押し付けるようにして身悶えて

しまう。
私はこんなにいやらしい人間だったらしい。僅かに残った思考回路でそんなことを考えるも、それをイヤだとは思わなかった。
自分に正直になるべきだと本能が告げていた。こんなに気持ちいいことに抗う必要性を感じなかった。
背中が反りあがり、小刻みに呼吸を繰り返しながら近づいてくる絶頂を手に入れようと身体をくねらせる。

「ぁ、ぁあ、ん……んぁ、あ、くる、ぁ、きちゃ、ぁ……んっ……ぁああぁっ!」

くる、と思った瞬間に一番イイところを強く押し上げられ、私は三度目の絶頂を迎えた。
喉からほとばしる嬌声と共に身体が跳ね、目尻から涙が伝う。晶の指を食いちぎりそうなほどに強く締め付け、彼の指の形をよりリアルに感じた。
ひぃふぅと荒い呼吸を繰り返しながらだらしなく足を広げ、力が入らない太ももが小さく痙攣していることを自覚する。
心臓が煩いくらいに鼓動を打ち鳴らしているのを感じながら、滲む視界で晶へと視線を移した。

「いかがでしたか?」

「すご、かった……です」

「それは宜しゅうございました。ご満足いただけましたか?それとも延長をご希望されますか?」

その言葉と共に晶は余韻が残っている中わざとぐちゅりと水音を立て、未だに密壷に入ったままの指を動かして私の情欲を誘う。
しかし私はその言葉に首を振り、終わりを願った。
たった三回、されど三回……その濃密すぎる三回の絶頂に、私の火照った身体は心地よい倦怠感に包まれ今にも眠ってしまいそうだった。

「畏まりました。それでは残りのお時間でお体を清めさせていただきます」

そう言った晶の声音は、既に色を伴っていなかった。私を刺激しないようゆっくりと指が引き抜かれる。
そして軽々と私の身体を抱き上げると、俗に言うお姫様抱っこでシャワー室へと運び始める。
そこで丁寧に私の身体からオイルを洗い流し、蕩けそうなほど柔らかなスポンジでたっぷりと泡を使って私の身体を文字通り清めてくれた。
いやらしさを一切感じさせない手つきで隅から隅まで洗い上げられ、身体を拭くのも、服を着るのも手伝われてまるでお嬢様にでもなったような気分になる。
髪にドライヤーを当てられながら再度水分の補給を促される頃には快感でぼうっとしていた頭も復帰しており、ここまで手をかけられることに羞恥心すら覚え

ていた。

「さて、ご気分はいかがですか?どこかご不快なところなどは?」

「ありません。大丈夫です」

晶は私の言葉に微笑むと、テーブルの上に置かれた時計の時間をとめる。
その時計はきっちり150分経ったことを告げていて、今までの施術は全て彼の計算のうちだったのだと悟る。

「それでは本日の施術はこれにて終了させていただきます」

「はい、お世話になりました」

腰を九十度に曲げ、深々と頭を下げられる。これで本当に終わりなのだと思うと、何故あのときの自分は延長しなかったのかと少しだけ後悔を覚えた。
しかしまた来ればいいと自分に言い聞かせ、彼に背を向けて部屋から出るためにドアへと足を運び始める。
それでもほんの少し残る未練が足を止めさせ、私はおずおずと振り替えた。

「あの……また来たときに、指名させていただいても良いでしょうか?」

「嬉しいことを仰ってくれますね……それでは幸枝様からのご指名いただける日を楽しみにしておきましょう」

顔だけ上げた晶は完璧な微笑と共に甘ったるい声で答えてくれる。
ああ、だめだ。癖になってしまいそうだ。
彼の微笑に私も曖昧な笑みを返し、今度こそ部屋を出るために歩みを進める。
分厚い木製のドアにつけられた、鈍色のドアノブに手をかける。

「またのご来店、心よりお待ちしております」

その木製のドアには、鈴蘭の絵がかけられていた。

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