パンクハザードの生活も随分と慣れた。
一日の大半は設備の整備の為にSAD製造室やシーザーの研究室で機材の調節で籠りっきり。合間にモネの入れた飲み物で休憩。ひたすらそれを繰り返す生活をしていた。適度に休日もあるが、大半はそんな風に過ごしている。というのも、シーザーがほぼ毎日研究に費やしているので休める日が少ないというのもある。
うん、一言で飽きた。いや、だってそうだろう。毎日同じことしてるわけだ。この島って娯楽施設とかないしね。
ココアを一口飲み、溜息を吐けばモネが問い掛けた。

「どうしたの?」

モネは何かと私のことを気に掛けてくれる。
故郷に妹がいる、とかそんなことを言っていたので、妹に似てるのかもしれない。いや、モネの妹さんのこと全然知らないけどね。モネの年齢からして私よりは当然年上だろうし。

「いままではころころ仕事変えてたから」
「そういえばずっと短期で働けるところで仕事をしていたと言っていたわね」
「そりゃそうだろう……、コイツはとんでもない飽き性で以前ここで働いていた時ですら3日で放り投げて別の仕事を始める始末!!コイツほど仕事が向いてねェやつがこの世にいるかァ!?」

確かに一旦放り投げはするけど暫くしたら戻ってきて仕事するのでそれはシーザーの捏造である。意味が無いことを何度もやるのはつまらないし、意味を見出してから行動にした方が自分の為にもなる。言い訳と言えばそうなんだけど。
とはいえ今回は違う。なんやかんや半年は既にここで働いている。もしかすると最長記録かもしれない。

「酷い言い草だね、今回は続いてるじゃない。仕事のあとにモネの用意してくれる飲み物、毎日違って新鮮だからね」
「うふふ……淹れた甲斐があるわ。クッキーもいるかしら?」
「やったー!」

モネは棚からクッキーを取り出すと皿に盛り付けてカウンターに置いた。それに手を伸ばすと、横からするりとシーザーがクッキーを手に取り頬張る。
それ私のクッキーなんだけど。

「モネ!!あまりコイツを甘やかすなよ!!コイツはすぅ〜ぐ付け上がるからな!!」
「お行儀が悪いわ」
「それ私の」
「知るか!!!!」
「大人気ない……。でも作業の効率が上がってるのが事実だから、これで機嫌が取れるならそうするべきだわ」
「シーザーには一生機嫌取りなんて出来ないだろうね」
「お前が言うな!!大体誰がお前の子守りなんざ二度とするか!!そもそもだ、誰がここに置いてやってると思ってるんだ!?」

このやり取りも何十回と繰り返してる内容だ。
モネは大抵穏便に済ませるために私に適当に言い聞かせる。

「……そういうことだから"M"の要望はなるべく聞いてあげてね」
「はぁい」
「おれの言うことも素直に聞けよ!!」

そうして私が素直に従って、シーザーが余計なことを言うところまでがセットだ。

「私は優しい人が好きだから」
「それは俺が遠回しに優しくないってことか……?」

少し落ち込んだようなシーザーの言葉に私とモネは思わず無言で顔を見合わせた。
生粋の悪人ではないんだけど、優しいかと聞かれると回答しにくい。優しさが全く無い訳では無いのだが、それでもって、利益や研究を最優先とする時点で純粋な優しさはあるとは言えないだろう。

「その無言はなんだ!?何か言えよ!!」

__________とまぁ、そんなやり取りを何十回と繰り返したある日のことだ。珍しくこの島に来客が現れた。
シーザーは部下からのでんでん虫の報告を苛立ちながら聞いていた。

「とにかく迎えを寄越す……絶対にソコから動くなと伝えておけ……!!」

シーザーは乱暴にでんでん虫をきるとモネと私を見比べて、私に声をかけた。

「そういうわけだ……、お前は玄関前の七武海をここまで連れてこい」
「それって仕事?」
「仕事に決まってんだろ!!さっさと行け!!」

怒鳴り散らすシーザーに部屋を追い出され渋々玄関まで向かえば、鍔に毛皮のついた身の丈程ある大太刀を抱えた細身の男が立っていた。防寒なのかファーの着いた帽子まで被っている。暖かそう。
恐らくシーザーの言ってた七武海とは彼のことだろう。ここ最近の世界情勢など知るはずもないので、名前とか全く知らないけど。

「お前は……」

一瞬、こちらを見て何か言いたげな表情を浮かべたようにも思えたが、気のせいだったのか険しい顔つきをしていた。

「何か私の顔についてた?」
「いや……、お前がシーザーの言っていた案内役か」
「そうだよ。それじゃあ案内するから、付いてきて」

男は大太刀を抱え直すと、ああ、と返事をした。
部屋まではなんだか気まずかった。警戒しているからか終始無言で、廊下を歩く時間は長く感じた。
そして部屋にたどり着いた私を見た途端に、シーザーは、と遅いぞ!と憤慨した。まあこれはいつもの事だが。
カウンターで仕事をするモネの横に座る。一瞬チラリとこちらに視線を向けたように思えたが、すぐに仕事に戻った。眼鏡をかけたモネの表情は伺えない。

「遅かったわね」
「えぇ〜、そんなはずは」

時計を確認すれば確かにふたりの言う通り、迎えに行ってからかなり時間が経過しているようだった。

「なんか能力でも使った?」
「いや……。大体おれの能力でそんなことはできねェよ」
「お前は人のせいにしてんじゃねェよ!!
 悪いな、この部下は少し抜けてるところがあってな……」

謝罪する割には悪びれず、シーザーは私に視線を向けた。

「別に気にしてねェよ」
「シュロロロロ……それは良かった。
 まあ、お前のことだ。どうせ迷子だろう……」
「いやだから迷子じゃないってば〜」
「ならどうして1時間もかかる!?迷子になってたんだろ!!お前は何ヶ月この島で暮らしてる!?」
「1年くらい……?」
「1年もいるくせに迷子ォ!?お前はいつまで経ってもガキのままだな……」

シーザーは小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
それはこっちが聞きたい話なんだけど。
体感で20分から30分くらいしか経ってないように思えたのに1時間も経過していたなんておかしな話だ。

「もう16だよ」
「16も十分ガキに決まってんだろ!!」
「そもそも迷子になったらでんでん虫で報告してるってば」
「それは……たしかにそうだな……」
「それで納得するのね」
「するわけねェだろ!!」
「とんだ茶番だな」
「なにが茶番だ!余計な体力を使わせやがって……。
 ……で、本題に入ろうか……何の用だ」
「この島に滞在したい」
「パンクハザードに滞在を?」
「記録の取れねェこの島に来るのも苦労した
 元政府の秘密施設だからな…
 この研究所内には現在にも続く世界政府の研究のあらゆる証跡が残ってるハズだ
 研究所内と島内を自由に歩き回れりゃそれでいい
 こっちもお前の役に立つ何かをする
 互いにつまらねェ詮索はしない」

そして念を押すように続けた。

「________勿論、俺がここにいる事も他言するな
 『JOKER』にもだ」

その言葉にシーザーは驚いたように口を詰まらせ、笑みを深めた。
その人物を知っているということは裏に精通しているか、加担しているかの2択だ。そっとモネの顔を伺えば、眼鏡をかけていて分かりにくいが口角が上がっていた。

「……訳知りじゃねェか…何故そこまで知っている」
「何も知らねェド素人が飛び込んでくるのとどっちがいい?」

それはどっちも信用しがたいし御免なのではないかと思い、シーザーにとってはそんなことは無いらしい。
まあ事情を知らない方が誤魔化しはきくだろうけど、バレた時に面倒なのは圧倒的にそちらだもんね。

「シュロロロロ…!成程、同じ穴のムジナってヤツか…
 信用は出来ねェが害はねェかもな。なあモネ」
「"北の海"出身、"死の外科医"、能力は『オペオペの実』
 医者なのね
 この島には毒ガスに体をやられた元囚人たちがたくさんいるけど、治せる?」

そういってカウンターで資料整理をしていたモネは筆を止め、ソファに振り向いた。

「……あァ、分かった」

だがシーザーはそれだけでは物足りなかったようで、待て、と話を止めた。
昔から欲張りなところがあったからそれで納得しないだろうというのは分かりきってはいたが、強欲な奴である。

「お前がここに滞在する…その代わりに部下共に足をくれる…
 そりゃあ、ありがてェよ…だが、お前は俺より強い!!!」
「そんなことで威張らないでよ」
「だってそうだろう!!!この島のボスは俺だぞ!!!ここに滞在したけりゃあ、お前の立場を弱くすべきだ」
「別に危害はあたえねェ、どうすりゃ気が済む…」

その言葉を待っていたかのように顔を明るくする。
こういう時のシーザーはろくでもない、というかそういう悪い事を企んでいる時の顔だ。もっとも、詰めの甘さからその計画が上手くいくことはあまりないが。

「そうしよう、トラファルガー・ロー…!!」
「俺の大切な秘書モネの『心臓』をお前に預かってほしい…
 いいな?モネ」

自分の心臓ではなく、他人の心臓を差し出すあたりがとても小賢しい。思わず呆れた目を向けた。
その言葉にモネは少し驚いて考え込み、しばらくして、いいわよと了承する。

「本当にいいの?」
「構わないわ。"M"が対価として要求するのはきっと……」
「その代わりに…!!!
 お前の『心臓』をおれによこせ!!!それで契約成立だ!!!」
「……」
「互いに首根っこを掴みあってりゃあ、お互い妙な気を起こせねェ…俺も安心だ……!」

こうしてこのパンクハザードに新たに滞在人が増えたわけである。
うーん、異質な組み合わせすぎる。
宣言通り、ローが妙な真似をすることは無かった。
囚人達に足をくれてやったり、彼らとも上手くやっているようだった。
研究所の主であるシーザーは全く信用していなかったし、その秘書であるモネは穏やかに接してはいるが、処世術だろう。あれは多分信用していない。私ももちろん信用してない。悪人では無いだろうけど、こんな島に来る時点で胡散臭いからね。
モネもローのよく分からない能力で腕と足を鳥のように人体改造されているようで、モネの羽はふかふかと柔らかい。空も飛べるようになっているとか。飛んでるところをちゃんと見た事ないけど。

「うわ〜、すご〜い、どうなってるのこれ?感覚とか、ちゃんとあるの?」
「ええ、あるわよ」

そう言ってモネは手を差し出した。確かに感触はあるようでモネは顔を逸らして、それよりも、と切り出した。

「あなたは良かったの?」
「興味はあったけど…」

そう、興味はあったが、ローにはお前は専門外だ、と一刀両断され、シーザーはお前は命知らずなのか、と小馬鹿にするように鼻で笑っていた。
なにが命知らずなのかさっぱり分からないし、専門外というのもよく分からない。互いにそれの意味は理解しているようだったが、私にはさっぱりだった。
一緒に話を聞いていたモネもさぁ、と返答したあたり理解しているのは2人だけのようだ。

「でもその体で飲み物淹られるの?」

ここでの楽しみの大半はモネの淹れる美味しいお茶やお菓子だ。しかも日替わりでいつも違うものを用意してくれる。そしてとても美味しい。
だというのにその体でモネがお茶や珈琲を淹れることが出来ないとなると人類の損失。いや、損失があるの主に私の娯楽なんだけど、とにかくただでさえ少ない娯楽が無くなるわけだ。モチベーション的な意味でそれは大変困る。

「心配いらないわ。はい、いつものよ」

モネはそう言って湯気の立つマグカップを私に差し出した。息を飲み、口につける。

「……!いつものモネの味!」
「慣れもあるでしょうけど、まるで長年連れ添ってきたように自由に動かせるわ」
「良かった〜。モネの淹れる飲み物も用意してくれるお菓子も美味しいから、これが食べられなくなったら仕事のモチベーションが無くなっちゃうよ」
「うふふ……冥利に尽きるわ」

そしてカウンターに置かれたチョコレートを手に取ろうとしたところで、隣から腕が伸びて来る。
そう、これは戦争。どちらがより多く、より早くこのお菓子を手に入れることが出来るかという戦争だ。とはいえ、普通の人間でしかない私が悪魔の実の能力者に機動力に勝てるはずもなく、最初にチョコレートに手を付けたのはシーザーだった。悔しい。

「シュロロロロ……モネに餌付けされて食いつくとは……相変わらずお前はお子ちゃまだな、ロア」

シーザーはニンマリと笑って、目の前でチョコレートを口に入れた。許せない。

「もしかして馬鹿にしてるの?そういうシーザーだってモネの用意したお菓子食べてるよね」
「おれはモネの上司であり、モネはおれの秘書だそ……!!ならモネが用意したものはおれのものだし、これは当然の仕事だろう!!」
「ええ、そうね」

モネは呆れたようにシーザーに珈琲を差し出した。
やはり濡れ衣云々置いといて、シーザーには色々とお返しするべきだ。

______だからといって大掛かりな悪戯ができる訳もなく。
せいぜい珈琲に淹れる砂糖を塩に変えるみたいな軽い嫌がらせ程度だ。因みにあんまり効かなかったので、次はコーラにメントスを入れることにしよう思う。メントスが欲しいとモネに頼んだら快く了承してくれた。
当たり前だけど、モネはいつも笑顔だけど勝手に心臓を担保にしたの怒ってると思う。シーザーがトップだから皆何も言わないし、言う必要もないと認識されてるのはあるかもしれないけどね。

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vita