立花がずっと可哀想でカイさんが一緒に落ちるSS 仮名

※本編2年後くらいユニヴェール卒業すぐあと位、カイさん玉坂座入門後
※立花父がクズ男設定
※車と免許取得済み睦実介
※死体の捨てやすいご都合主義山と何処から調達してきたのか謎のノコギリ・スコップが登場



1

嗅ぎ慣れた筈の古いフローリングの独特な匂いに混じった血の臭いを嗅ぎながら立花ミナミは、ただ呆然とキッチンのシンクキャビネットにもたれ掛かるように倒れる男から目を逸らせずにいた。

(私なにしてたんだっけ)

つい一時間程前まで自分は、約四年ぶりに訪れた実家で残していた私物の片づけをしていた筈だった。

(そうだ、それでお父さんが帰ってきて…借金の返済が今渡してる分のお金じゃ足りないから……それで…)

もっと稼げる仕事をしろと強要されて揉み合いになり、勢いで突き飛ばしてしまってから父が動かなくなり、駆け寄ったら父の頭から血が流れていて…今に至るのだと漸く思い出せたところでミナミは改めて事態の重さに打ちのめされた。

(私が…殺したんだ)

一度は諦めていた夢が叶い歌劇学校に通うことができ、仲間たちと切磋琢磨し築き上げた三年間という努力の結晶がロクデナシの父にたった十分程度で全てぶち壊しにされた。

今後の自分の辿る道を考えるとそれが仕方のない事だと理解はしていても、理不尽な事実を到底許容できない己の心の反駁はんばくを感じながら茫然自失するしか出来なかった。


コンコンとノックの音が静寂の中に響く。
ミナミは思わず手のひらを口に当て息を殺した。

訪問者が誰であれ今この事実を隠すことは後々デメリットになることを知ってはいたが本能的に彼女は隠すことを選んでしまったのだ。

(はやくいなくなって)

キッチンのすぐ隣には玄関のドアがある為、ミナミは訪問者の立ち去る足音を待ちながら、煩く早鐘を打つ心臓の音が口から漏れないように口をおさえる。

「立花?いないのか?」

ドア越しに聞こえた低い声の持ち主は彼女の恋人であり、ユニヴェール歌劇学校在学中の公演ではパートナーでもあった事のある睦実 介むつみ かいの物だった。

そういえば今日の稽古が終わったら手伝いに行くと彼が言っていたのを思い出しつつミナミは今すぐにでもドアを開けて泣きつきたい気持ちをグッとこらえて息を潜める。

しかしその時無情にもミナミのポケットに入れていたスマホの着信音が鳴った。

慌ててスマホのスイッチをマナーモードに切り替えるが、扉の前にいたカイには勿論聞こえており聞き慣れたその音楽がミナミのスマホの物であることも当然分かった。


所々錆びているグレーの年季が入った扉を前にカイは中にいるであろうミナミに何かあったのかと若干の焦りを感じながら今度は少し声を大きく「立花、いるのか」と言ってみたがやはり中から返答は返ってこなく…思わずドアノブに手をかける。

回らないと思っていたドアには鍵がかかっておらずすんなり開いてしまい、彼の中にあった不安はさらに大きくなった、
勝手に中に入る後ろめたさ感じつつ中に足を踏み入れる。



「…カイさん」

会いたかった女は玄関すぐ横のキッチンの前に座り込んでおり、無事な彼女を目にして安堵感を感じたのも束の間…カイはミナミの前にいる男を見て唖然とした。

沈黙しながら後ろ手に扉を閉める彼の目に震えるミナミの肩が映り、カイは一度ゆっくり息を吐き膝立ちの状態で彼女に目線を合わせる。

「お前に怪我はないのか?」

何があったのかより、まず安否を確認してくれた彼の優しさにミナミは涙が出そうになったが堪えて小さく頷く。
それを見てカイは「良かった」と小さく言い、視線を男の方に向け「彼は…」と躊躇いがちに聞いた。


「父です…その…警察を…呼ばなきゃです…よね」

先程までの葛藤を飲み込みながらミナミは何とか平静を心掛けながら震える手でスマホを取り出して指を添わせるが言葉と反してロックを上手く解除できない。

「あれ、…あ、はは、…ごめんなさい、うまく…操作できないな」
「たちばな…」

「おか、おかしいですよね…だって、私が殺したのに…警察呼ばないと…」
「立花!」

カイは声を張りながら肩に手を置き「何があったんだ」と聞いた。

「変です…よねっ…わたし、まだ舞台に立ちたいんですっ…やっと…やっとユニヴェールも卒業して…これから…だったのにぃ…ッ…」

外に声が漏れないように嗚咽しながら絞り出したミナミの言葉を静かに聞きながら沈黙を貫いていたカイはやがて意を決したように「俺がなんとかする」と言った。

ミナミは言葉の意味を理解して反論をしようとしたがカイはそれを聞く前に「大丈夫だ、俺を信じろ」と安心させるように言葉を続けた。

時刻は午前一時、辺りの寝静まった夜の冷寒とした静寂とは真逆の煩く熱い心臓の音を感じながらミナミとカイは言葉を交わさずに静かに視線を交わした。

2

あれから事のあらましをキチンと説明した後のカイは今後の行動を淡々と提案した。

その様子はユニヴェールで初めてミナミと出会った頃の彼を彷彿とさせる様で自分のせいで彼をそうさせている事実に胸が痛んだが、

信じてほしいと言った彼の思いを無下にする事は出来る筈もなく彼女も務めて冷静を装いながら彼と今後の計画を話し合った。


(あと、ゴミ袋と…)
近所では万が一顔を覚えられていたら不味いので最近できた駅前の新しいコンビニで必要な物を買い物かごにいれて会計を済ませる。

演技をする事を日常的にしているとはいっても、あんな事が起きてこれから父親を解体して隠滅するというのにここまで普段通りの顔して街を歩いてコンビニで買い物まで出来るなんて思っていなかったのかミナミは帰り道で思わず苦笑した。

(「お前のおかげで、ずっと楽しい。ありがとう、立花」)
こんな時に思い出さなくていいのに脳裏に蘇ったのは二年前、まだミナミが一年生でカイが三年生だった頃。

ユニヴェール公演の稽古に明け暮れていた合間にカイの゛私用゛で一緒に行った動物園で言われた言葉。

あの時自分は彼の中に永遠に自分という存在が残っていってほしいと願った、しかしその先にある結末がコレなのであれば自分はあの時なんて事を願ってしまったのだろう。

足取りは重かったが歩みを止めることはなく、ミナミは家に戻り買ってきた袋を適当に床に置くと上着を脱ぎダイニングに隣接している脱衣所の引き戸を引く。

「カイさん戻りました」

玄関を開けた時から微かに漂っていた異臭をもろに受けて顔を顰めそうになったがミナミは表情を崩さない様に懸命につとめながら言葉を発した。

しかしその声は音や臭いがあまり漏れないようにと閉められた浴室の茶色のすりガラス越しに聞こえてくるゴキッ、ギリギリというノコギリの音にかき消されてしまった様だ。

中に入っては行けない。そこにいったらダメだという警告が自分の中で聞こえる。
しかし、そんな不安を押し殺すように乾いた口を動かし「―開けますよ」と言葉を絞り出した。

軽く すりガラスをノックするように叩きミナミが浴室ドアに手をかけて押すと中からようやく彼女の帰宅に気づいたカイが慌てて制止する言葉を出したがタイミングが遅かった。


地獄絵図とはまさにこの事だろう。

玉砂利たまじゃりの様な石柄のタイルや薄ピンクの壁には血があちらこちらに飛び散っており、薄水色の昔ながらのこじんまりした浴槽にはバラバラになった体の部位が入れられている。

顔面蒼白になる彼女は落ち着くために一旦視線を逃そうとカイを見ようとしたが……不運なことにその奥にいる目と見つめ合ってしまった…苦し気に顔を歪めた父の目だ。

「…――!ッう゛、ぉ゙ぇ゙、ッ…――!!」
体の内からこみ上げる胃液は慌てて出した手を待つことは出来ず口から飛び出す。

少し遅れて抑えるが一度せき切った濁流を止めることは出来なく、うずくまるミナミの背をカイは「すまない、俺がすぐ気づなかったから」と苦し気な表情で落ち着くように撫でた。

「ごめ、ごめんなさッ…ゥエッ…―ごめんなさい…カイさんだって嫌な思いしてるのに…―ごめんなさい、」

吐しゃ物は止まったがミナミは情けなくて顔を上げられず懺悔しながら肩を震わせながら嗚咽した。

「………立花…ずっと前に行ったことを覚えているか?」
カイは静かに手を動かしたまま凪いだ瞳でミナミの背を見つめる。

「俺は、何があってもお前が好きだ……だからお前も俺の好きな人を好きでいて欲しい……今だってその気持ちは変わっていない…」

「だけど…―今の私じゃ…カイさんに何も与えられない………私、カイさんには幸せになってほしいんです…こんな事させた後じゃ…もう無理かも…しれないけど…」


「……お前は失ってばかりで諦めていた俺に誰かと一緒にいる温かさを教えてくれた、生きる希望を与えてくれた……それに立花…お前が地獄に落ちるなら俺も一緒に行きたい………残されるのはもう嫌なんだ…俺を置いていかないでくれ…―」

後半になるにつれて落ち着いていた筈のカイの声が微かに震えている。

それを聞きミナミは改めて事の深刻さを理解した。

(「俺は……親を失いたくなかった」)
脳裏にかつて彼が漏らした言葉が蘇る。

睦実 介の今後の人生に立花ミナミがいないという選択肢はなかったのだ。

もしも彼女が即座に自首して服役する選択をしていたなら或いは違った未来があったかもしれないが……取り乱し嗚咽するミナミの姿はカイに彼女の自死を仄めかすにはあまりに十分すぎた。

(カイさんは失う事を誰よりも怖がっている………………私が…それを救いたかった…楽しく明るい未来を一緒に歩きたかった…)

それは叶わない。
ならば、もう共に落ちるしかないのだ。

(私がいなくなってしまったら…この人は…本当に)


ミナミは顔を袖で拭い、上半身を起こしてカイと視線を合わせた。

「私はカイさんを置いていきません、だから……」
胃酸で焼けた喉が痛く、言わなきゃいけないのに苦しくて続きの言葉が紡げない。

(ちゃんと言わないと…)
もう叶わない望みは捨てるしかないのだ。

「だから…最期まで私と一緒にいてください」

「勿論だ…ありがとう、立花」


ミナミはその言葉に違和感と幾ばくかの寂しさを感じた。

自分が言った゛最期゛とは文字通り死が二人を分かつまでなのだから結婚を申し込んだような物だ。

それに承諾したのだから、いつまでも自分だけ名前で呼ぶのではなんだかチグハグだ。

「…名前で呼んでください、だってもう…私とカイさんは何があっても最期までずっと一緒なんですから、いつまでも立花のままじゃ少し寂しいです」

「あ、ああ…確かにそうだな、ミナミ」

自分で言った筈なのに初めて呼ばれた名前は他の誰から呼ばれる物よりも特別で甘美な響きに感じられ少しだけ頬を緩ませて彼女は「はい」と返す。

血だらけの地獄の様な狭い浴室で既に事切れたミナミの実父の頭部の視線も存在しない程、完全に二人だけの空気がそこに存在している。

神への誓いも指輪も純白も無かったが、二人は互いへの終わることのない愛を誓うように触れるだけの口づけをした。


(ここまででおわりがいいきもする
蛇足かん



3

時刻は午前四時を三十分程過ぎた頃合い。
実家のある場所からカイの所有する車で移動する事三十分、小さくした父を誰も用事がなければ来ないような山の中に埋める為に歩みを進めた。

四月のまだまだ寒い気温は容赦なく二人を包んだ。

「ミナミ、寒くないか?」
「寒いですけど、カイさんが手を繋いでくれてるから大丈夫です」

お互い片手にばらした肉片の入ったゴミ袋、もう片方は互いの手を握りながら山道を登る。

「なんだか、ユニヴェールにいた頃を思い出すな」
「そうですね、あ、そうだ、今年も梅の花がたくさん咲いていましたよ」

他愛無い会話を咲かせることが出来るのは、深夜から一睡もすることなく動き続けている深夜テンションなのか、それとも互いに狂ってしまったからなのかは分からなかったが、心が互いで満たされているような多幸感をミナミもカイも感じていた。

定職にさえついていなかったミナミの父がいなくなった所で探す人間は借金取りのヤクザくらいだ。

だが、その方面に関しては今まで通りミナミは返済をしてさえいれば問題ない。

アパートの部屋は車をカイが取りに行っている間にミナミがあらかた片付け、匂いだけはすぐにばれない程度にはしてきた…といっても築45年程の古アパートに住んでいる奇特な人間はワザワザ父を心配して訪ねてくるような人間性は持ち合わせいない為、しばらくは父の殺害が表沙汰になる事はないだろう。

そんな事を頭のどこかで考えつつカイと談笑しながら、掘った穴に父だったものを埋め終えて帰路につこうと来た道を歩いているとカイがおもむろに足をとめた。

「少し、休んでいかないか?」
「え、あ、ああ、そうですね、確かにずっと動きっぱなしで疲れちゃいましたもんね」

正直、なぜここで休むのかと疑問に思いもしたが大伊達山が好きだった彼の性格を考えればそこまで不思議でもなかったので彼女も頷き。山間部の少し開けた場所に腰を下ろす。

「」



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