盛んなや

※世長ルートで2年生になった二人


自分は一生こんな思いを人に抱いて生きていかなければならないのか。
世長の頬に嫌な汗が伝う。
夏の気温だというのに彼の体は嫌というほど冷え切っていた。
リゾートホテルの個室だというのに部屋の隅で紙の束を手にこうべを垂れる。
「…『きっと次は』…『きっと、つぎは』……」
口の中で台詞を転がす。
きっと解などないけれどこれが平凡な式だということは分かる。
「……スズくん、よかったな」
無意識に吐き出していた言葉に目頭が熱くなった。
こんなこと思いたいわけじゃない。
僕は。
きっと今も課題と真摯に向き合っているであろう同期が容易に想像でき手の甲を抓った。
先ほどまで廊下から聞こえてきていた賑やかな雑音はいつのまにか止み、人の気配はなくなっていた。
今、何時だろう。
ふと頭が冷静になり時計を見やる。
もうとっくに日付が変わっていた。
世長は重い腰をあげるとホテルの温泉へと向かった。
今はどうしても一人になりたい気分だったからちょうどよかった。
しかしそんな世長の期待を裏切るかのように館内で使用しているスリッパが目に入る。
誰かいるんだ。
織巻だったとしたら自分はうまく笑えるだろうか。
そう鈍い思考で力なく考えながら衣服を脱いでいく。
内湯で体を流し、冷え切ってしまった体を温めていく。
早く出よう。
外へとつながっている露天に足を運ぶと濃い湯けむりがあたりを包んでいた。
あまり相手を見ないよう気配を消しながら湯舟に浸かる。
空を見ると濃い藍色に点々と散った白が広がっていて自分がちっぽけに感じた。
こんなことで悩んでいては駄目だと自分に喝をいれるようにバシャリと熱い湯を顔にかける。
その音に奥にいる人物が反応した。
うっすらとした照明に浮かび上がっていたのは想像とはだいぶ違うものだった。

「えっ…!!!!?」
「…ぁ」
創ちゃんと気まずそうにつぶやいた影の正体は自分が恋焦がれている立花菜々その人だった。
体温は一気に上昇し、理解しがたい現実に思わず奇声を発してしまう。
「菜々ちゃんっ、ななななななんで!!!?ここにっ!!……」
これではまるで立場が逆転してしまったかのようにみえる。
立花は慌てふためく幼馴染の動揺っぷりに弁明しようと立ち上がろうとした。
「ッッ!!動かないでっっ!!!!見えちゃうっ!!見えちゃうからっ!!!!」
「あ……ごめん!」
自分が置かれた状況を分かっておらずか、やけに危なっかしい幼馴染の行動に世長は舌を巻く。
まぎれもない、年頃の男女が二人、何も身に着けていない状態で。
この嘘みたいな事実が世長の心を嫌というほど跳ねさせる。
というかこの状況は去年とまるで同じじゃないか。
なぜ油断してしまったのだろうと世長は頭の中で己を責めた。
「…ぼ、ぼく先に上がるからっ!ごめん、ほんとごめんねっ!!」
「あ、待って、創ちゃん!」
「えっ!?ぁ…!」
急に方向転換したせいで温泉の成分で滑りやすくなっていた湯の底で足を滑らせてしまう。
ばしゃんと派手な音をたてあたりに水しぶきが舞った。
「だ、だいじょうぶ?」
「平気っ!!平気だからっ!!!これ以上は…!!」
心配して世長に近づく立花を必死に静止する。
世長のすぐ後ろで立花が止まった。
彼女の不安そうな息遣いとぽたぽたと湯舟に落ちる雫の音があまりにも扇情的で世長は堪らず目を瞑った。
しかしそれがまずかった。
視界を封じたことにより立花のあられもない姿が容易く想像でき世長の自制心とは裏腹に熱を帯びていってしまう。
「創ちゃん」
彼女の心配そうな声音に我に返り目を開けると緩やかに立ち上がってしまった己が目に入ってしまった。
思わず叫びそうになる口を押さえ、隠すように湯舟にしゃがみこんだ。
「…ごめんっ。ちょっとしたらすぐに上がるから!」
「……はははっ!なんかおかしいね」
くすくすとこそばゆい笑い声がし、世長は訳がわからず眉をひそめた。
「だって去年と全くおんなじ反応なんだもん」
「それは…!……そう、だよ」
世長はバツが悪そうに膝に顔を埋める。
「私たち恋人同士なのにね」
「…うん」
去年と今で異なっているのは二人の関係性だった。
あのときの自分はこうなるなんて思いもよらなかっただろう。
立花の言葉には恋仲になったというのにいつまで初々しい態度なのかという問いも含まれているような気がして世長は眉間の皺を濃くした。
彼女はいつまでも世長を幼かったあのころの少年と同じようにみている節がある。
それでも恋人になった二人はひと月ほどで体も重ねたというのに。
月明りに照らされた情事を思い出し、世長は背中を丸めた。
あれが初めて。
その次は夏休みに入ってすぐ。
他でもない自分だけが知っている彼女の姿が彼の体温を上昇させた。
「でもさ、入ってきたのが創ちゃんでほんとよかったよ」
「そっ、それは当たり前だよ!!君の秘密がバレたら…!!」
本当はそれだけでなく嫉妬心から出た発言だったが彼女の目には純粋な思いやりに映った。
「そーだよね!でもさすがにみんなもう寝てると思ってたからさ」
立花は悪戯が失敗した子供のように笑いながら頬をかいた。
「…明日でもう終わりだね、合宿」
「そう、だね」
「ねえ、そっちにいってもいい?」
「えっ…」
世長が返事をする前に彼の背中に指先が触れた。
細い指先。
彼女の指は広くなった彼の背中を確かめるようになぞられていく。
「っ!!……」
すっかり火照って敏感になってしまった皮膚がそんな弱い刺激でさえも拾っていく。
必死に我慢していた欲望がだらしなく顔をのぞかせる。
雑念を振り払おうにもこの甘美な快楽から逃れられるわけなどない。
「創ちゃん。また背伸びた?」
「えっ、どう、だろ…!」
彼女の指がうなじから背骨を伝っておりていく。
そのこそばゆい感覚に耐えながら世長は絞り出すように返事をする。
頼むから静まってくれ。
とんでもなくみっともない祈り。
立花は己とは違う体を観察するように薄明りをたよりに彼の存在を確かめていく
この人は自分とは違う性なんだなと思うと彼女の頬が濃く染まった。
自分の中の熱い欲に突き動かさるまま、立花は彼の背中に唇を落とした。
「っっ!」
「ぁ、ごめん」
指先とは違う柔らかさと吐息を背後に感じ、世長は大きく体を跳ねさせた。
限界だった。
「菜々ちゃん…」
世長は上気し赤く染まった顔で振り返ると彼女の細い手首をつかんだ。
体温のあまりの熱さに立花は驚いて彼の瞳を見る。
心許ない視界でもはっきりと彼の目の欲が見て取れた。
「… 菜々ちゃん」
「ぁ…」
逞しい腕で抱きすくめられ体がじんわりと熱くなる。
抑圧されていた彼の欲望は止まらなかった。
世長はすっかり熱くなった唇で彼女の口を塞ぐ。
のぼせてしまった頭では自分を制御することなどできなくて。
立花の柔らかな唇の感触に夢中で自らの欲求をひたすら捻じ込んでいく。
抱きしめられた腕の中でそれをただただ受け入れた。
口内で縮こまっていた舌を容赦なく攫っていく。
重ねた合間から漏れる吐息は酷く滑稽で。
それすら気にならないと熱い舌で答える。
「ッ、ハァ、……ごめ、ん…」
二人の体からはうっすらと汗がにじんでいた。
窮屈だった腕を少し緩めると熱っぽい視線と目が合う。
「創ちゃん。我慢しなくていいよ」
全てを包み込むような笑顔。
「……ずるい」


このあとめちゃくちゃやった。



わいちゃんは歯列をなぞる表現きしょいから嫌いんごねえ。


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