暁過去編SS



赤黒くこびりついた血液をごしごしと乱暴に拭って、少年――あるいは少女は、腰まで伸びた蓬髪を結び直した。長い前髪の隙間から血溜まりを落とし込んだような目が覗いている。月明かりの下に冴え冴えと輝く瞳は、つい先刻まで猛る様に人を斬り殺していたとは思えぬほど凪いでいた。

線の細い、薄い体躯を持った、まだ10代に差し掛かったばかりであろう少年は、しかし大人より勇猛であった。
まるで兵役に就いていたかのような勇ましさに私は思わず
「君は何処かの国で戦士でもやっていたのかい」
と尋ねてしまう。少年はゆるりと目を上げて「さてな」と短く答えた。冷徹で不遜な、感情の無い声音であった。