凛としている、というのはたとえば彼女のことを言うのだろうか、と青年は思った。
生活を共にしている双子の姉妹の姉の方——ニコラもある種『凛として』いるが、どうもその言葉はニコラに相応しくない……というよりもしっくり来ない。しかしその点、目の前の、女性とも少女とも言えぬ独特の雰囲気を持った女は、『凛として』という表現がことのほかよく似合った。
風が吹いていた。突風であった。慌てて帽子を押さえた彼の視界に、女の——暁の背が映る。彼女の体はぴくりとも動いていない。ただ、風に嬲られた黒髪を鬱陶しそうに払って、しゃんと背筋を伸ばして佇んでいる。
折れそうな、というと大袈裟であるが、それでも十分に細い彼女が、平然と風を受けて自分よりよほど確かに屹立しているというのは奇妙でもあり、美しくもあった。
それをぼんやり見つめているうちに風が止んで、暁はまた煩わしそうにかぶりを振る。囚われたように茫然と、あるいは恍惚としているだけの煌を差し置いて彼女はゆるりと目を伏せた。
「やっぱりこいつは綺麗なんじゃないか」——と考える。いわゆる女らしい美しさではない、性別の垣根を超えた妙な美しさを彼女は湛えているのではなかろうか。煌は幾度となく、超越的な、筆舌に尽くしがたい美が、その効果をいかんなく発揮するところに出くわした。正しく言えば、最も身近な彼女の被害者であった。
突然、じわりと涙が滲んでくる。かすみ揺らめく世界で、暁がこちらを振り返った。自分と正反対の紅い瞳と真っ正面から視線がぶつかる。
ここで泣いてはダメだ、とハッと我に帰るのと、涙が頬を伝うのはほぼ同時であった。
彼女は恐ろしいほど目敏く、いっそ異様なほど鈍感に出来ていた。慌てて此方へ駆け寄った暁の、「大丈夫か、目に砂が入ったのか?」という見当違いな心配が、どこか遠くに聞こえていた。