大きなお世話!

「君、君ね、これは余計な世話だと僕も思うんだけど」
別れ際、異邦人はそう切り出した。
「私はこれから急ぎの仕事があるんで送っていってやれないが——煌、頼めるか」と暁に頼まれて、渋々最寄りのバス停までバイクを走らせた後のことである。

「暁が好きなら、君は告白よりプロポーズをした方がいい」
はぁ?と思わずそんな声が出る。
「別に好きじゃねえし」
「そう?なら良いんだけど、」
何が良いのかと首を捻って、煌ははたと一つの結論に思い至る。この男は暁を好きなのではないか。もちろん、友人としてではなく、一人の女として。
その瞬間、どろりとしたものが煌の中に沸き起こった。

——まぁ暁は、美人だ、と思う。人間離れした、芯のある美しさがある。黙っていれば、その容姿に騙されて惚れ込む男もあろう。
性格の方は見目よりずっと苛烈だが、世の中すべての男が大人しくて可愛らしい女を好きとは限らない。彼女の手厳しさ、その烈女振りが良い、という者がいてもなんら不思議ではない。
だからまぁ、目の前でニコニコ笑っているいけ好かない男が、暁を恋していても何もおかしくはないのだけれど。

「あいつはやめといたほうがいいと思うぜ」
「おや、どうしてそう思うのかな。彼女はとても魅力的だと思うけど」
「猫被ってんだろ。すぐ手ぇ出るわ口は悪いわ怪我するわ散々だぞ。やめとけやめとけ」
「それは僕も祖父に聞いているとも、」
「じゃ、お前の爺さんが言うよりずっとやばいと思っとけ。手に負えねえよあんな奴」

お前みたいな金持ちの坊ちゃんには——と言う言葉は飲み込んだ。
彼は煌の言葉を聞いてなおもニコニコと笑みを絶やさない。こうずっと笑われていると、嫌悪感がどうというより薄気味悪くなってくるな、と煌は半歩後ずさった。
そんな彼に、青年はうんうん頷いて、
「よく分かってるじゃないか。彼女を好きなだけある。君、いま嫉妬しただろ?それが答えだと思うね、違う?」
ぐ、と言葉を飲み込む。
ドロドロした不快感は確かに嫉妬という言葉がふさわしい。それは煌も分かっている。分かっているからこそ認めたくなかった。
特に他人に言われたときには。

たまに見惚れてしまうことがあると言うだけで、これは恋とかいう甘ったるい代物ではない。
そう思うことでどうにか彼は暁とまともに接することが出来ていたのだ。
それを「やあ君は彼女が好きなんだね」と言われた挙句、「プロポーズするといい」とまで唆されて「そうします」と大人しく素直に聞けるような、従順な性質を煌は持ち合わせていなかったのである。

「暁はね、鈍感なんだ」
青年が語り出す。早くバスが来たら良いのにと時刻表を確認するも、数少ない本数のバスが通るのはまだ当分先だった。
「自分の想いにも相手の想いにも気付けないんだよ。試しに好きだと言ってみると良い、彼女はきっと『そうか』って頷くだけだから」
「言ったことあるのかよ」
「僕はないよ。父から聞いた話さ」
ふぅんと曖昧な合いの手を入れる。
「だからね、もし君が本気で彼女を好きなら、告白じゃなくて求婚した方がいい。彼女はそうでもしないと恋心なんかスルーしてしまうから」