きらめき

今時珍しいブリキのランプに火を灯して、寝酒だと言ってウイスキーを流し込む瞳が好きだった。薄い唇の隙間からよく冷えた琥珀をゆっくり体の奥へ飲み込んで、ふっと目を伏せる。そうしてまたゆっくり瞼を押し上げて、普段より幾らか楽しそうに——そして普段より脈絡なく——話す彼女の、深紅の眼が。
「お前の目は綺麗だなぁ」と彼女はからりと笑う。あまりに突然な台詞に「はぁ?」と思わず訝しむ声が出る。
「海か空か……水平線の色だから、海か」
海は良い、そんな事を口にして彼女は頬を緩めた。悪戯でもなく、かといって凶悪でも揶揄でもなく、ただ口の端を緩く吊り上げただけの微笑みが俺に向けられることなど滅多にない。完全な不意打ちにことりと心臓が揺れて、頬にじんわりした熱が宿る。
部屋が薄暗くて良かった。こいつが懐古趣味で、照明を小さなランプひとつでまかなうような奴で良かった。
「懐かしいもんだな、私も昔は海を渡ったもんだよ」
あの頃はどこも物騒で——などと一体いつの時代の話をしているのか皆目見当もつかない話をし始めた暁に、
「なあ酔ってるのか?」
「いいや。私はうわばみだよ」
「その割には言ってることめちゃくちゃだぞ」
「……まぁ気分は良いが」「酔ってんだろ」
そう言って唇を尖らせた俺に、暁は呵々と笑い声を上げる。何がそんなに面白いものか愉快そうに肩を揺らし、
「それじゃあ焼きが回ったんだな」
などと言葉を発する。「俺とそんな変わらねえだろ」
そんなことはない……と薄々感づきつつ、咄嗟にそんな事を口走った。暁は外見だけなら俺より少し上か同じくらいに見える。少なくとも何十年も生きているようには見えない。彼女が人あらざる得体の知れない何かであることを知りつつ尚、それを受け入れられないというのは、——彼女に対する冒涜だろうか。
と、柄でもなく感傷的でやたらに小難しい思考を廻そうとした瞬間、視界の隅で昏いきらめきを宿す赤色がふっと細められて。
「大した問題じゃない、考えるだけ無駄だ」
「……っ」
「今更さ、」
「でも」「私が良いって言うんだから良いんだ」
ふん、と鼻にかかった笑い声を溢して、そんな事を考えるくらいならさっさと寝ろ、などと暁は言う。
小馬鹿にするような、見下すような、それでいてそのどちらでもないような。ただいつものように笑っただけとも取れる曖昧な、複雑な笑みを刷き、彼女は再びグラスを呷った。
空になったグラスを机に置いて、暁がランプを手に取る。蝋燭の灯火がゆらゆらと揺らめいて、その双眸の色合いが二転も三転もした。その光の明滅についうっかり魅入ってしまう。それでぼんやりしていたのを不審がったらしい暁が一言、
「煌?」
と俺の名前を呼んで。「ん、あぁ、……」だなんて曖昧な返事をしながら、意識はやはり彼女の両の目に宿ったきらめきに向けられていた。