酔夢

じくじくと目の奥が痛んだ。思考に靄がかかり、意識がふわふわと頼りなく宙に揺れている。薄く開けた視界に映るのは数刻前と何も変わらない部屋の様子である。散乱したゴミと、積み上げられた本、壁に貼られた人気映画のポスター。散らかった床とは対照的に、机の上は綺麗に片付けられ、筆立てと一枚の封筒以外のものはない。
すぅっと深く息をしてゆっくりと吐き出す。空気を味わうのは数時間ぶり——もっと短いかもしれない——のはずだが、それが「おいしい」とはこれっぽっちも思われなかった。

体の下敷きになっていた腕をのろのろと動かして近くをまさぐる。じん、と痺れた指先にかちゃりと音を立てて目当てのものが触れた。つるを耳に引っ掛けて、幾度か瞬きすると、完全にとまではいかないが先ほどより鮮明な光が自分の元へと戻ってくる。酸素がそうであるように、薄暮の穏やかなきらめきも随分久しいものだった。
懐かしく愛すべき光。全てを闇に融かしこむ夕暮れは、何より美しく、そして唾棄すべき光景だった。

「あぁ」と低く掠れた嘆息を漏らす。
ゆっくり体を起こして、机上の封筒を手に取る。誰に宛てたという訳でもない手紙は、かれこれ半年は前に手ずからしたためて、きっちり丁寧に封をしたものだ。今日に至るまで何度となくこの机の上に置かれ、その回数分、抽斗の一番奥にしまい込まれてきた。薄汚れ、所々にしわのついた手紙は、今回も読まれる未来を失ってしまった。いつになったら開封されるのだろうと、己の生き汚さ——悪運の強さに心底呆れながら、また慎重に抽斗の奥へと滑り込ませ、目を伏せる。
思考の深いところから、じんわりと睡魔が染み込んでくる。先ほどの失神とは全く違う、緩やかな意識の喪失に彼はまた一つ息をこぼした。