燃星日和

蒸すような暑さに目を覚ます。じっとりと額に浮かべた汗を拭って、腹を覆う布団をばさりと――これ以上ないほど乱雑に――跳ね除けた。

何だってこう、この国の夏は蒸し蒸しと不快な暑さなのだ。朝も夜もなく、不愉快極まりない湿度を保って、拭うそばから汗をかく。これがからりと乾いた暑さならばまだしも、茹だるような蒸し暑さでは湧き出る汗も一向に乾かず、延々べたべたしていて、一刻も早くシャワーを浴びてすっきりしたい、今すぐ濡れたシャツを脱ぎ捨ててしまいたい、とそんな思いに心を支配されてしまう。
そうして、その感情、欲望が、なおさら暑さに拍車をかけるようでたちが悪かった。

まだ夏本番ではない。それどころか、梅雨入りさえ迎えていない。にもかかわらずこの有り様では、いよいよ夏を越せるかどうか怪しくなってきたように思われる。

――そのうち溶けて、蒸発して、血の一滴も残さず綺麗さっぱり無くなってしまうのじゃないかしら。などと考えて、その想像のあまりの荒唐無稽さ、突拍子もないファンタジーさ、それでも隠しきれぬ絶望的な悲壮感に、ふん、と鼻を鳴らした。

開け放たれた窓からは、かすかに水をはらんだ夜風が、さらさらと吹き込んでいた。



title:ユリ柩