蠱毒

 その、どす黒さ。
 宵闇より深く、けれど夜ほど美しくもない、暗澹としたものが心中にとぐろを巻いている。これは毒だと直感した。己をも蝕む猛毒である。それが他者を傷付けぬはずもない、と辺りに漂う談笑の声にぐっと口を閉ざす。……閉ざそうとする。
 果たしてまともに唇を合わせて縫いとめていられるか、あまり自信がない。自信はないが、しかし黙っておかなければならない。世間がどうあれ、私にとってこれは毒であり、悪だ。であれば押し留めておかなくてはいけない。
 哄笑する集団の真ん中から声がかかる。高く朗らかな、いかにも愉快そうな呼び声に、こちらも朗らかな返事を投げてどうしたのかと白々しく輪に加わった。
 ごぽり、とどこかで禍々しい音がした。