潤む火炎

これの続き
事後注意



 じぃんと脳が痺れていた。全身に感じる緩やかな倦怠に、寝ぼけ眼を擦りながら俺はゆったりと身体を起こして、ひとつ欠伸を噛み殺す。薄靄がかかったような思考を、ゆっくり、けれど確実に廻して昨晩の記憶を辿っていく。ついにやってしまった、という密やかな達成感と充足感。どこまでも凛々しく澄み切った彼女を自分のものにしたのだという優越感が心中に湧き起こり、それは仄暗い満足感を伴ってそのままゆるりと根を下ろした。ちら、と隣を見てみると、そこでは暁が未だ眠りの中を彷徨っていて。普段、俺よりずっと早くに起きて朝の支度を済ませているはずの彼女が、昏々と眠っているという珍しい光景に不思議と頬が緩んでしまう。

 昨日は本当に良かった、と息を漏らして、赤い花弁を散らした彼女の肩口をそっと指でなぞる。空想の中ではない本物の暁に、所有の証を刻み込んだのだ、とそう思うと何やらぞくぞくと背筋が粟立って、燃えるような興奮が全身を這い回るようであった。
 契りの最中、暁は終始余裕の表情を浮かべていた。剛直を自分の胎に収めながら、「どうだ?気持ちいいか」と笑う彼女の鮮烈さはなかなか忘れられるものではない。好い、と素直に頷いた俺に、彼女は嫣然として笑ったまま「ならいいんだ」と呟いて、「もっと好くなろうな」とくちびるを落とした。お偉方の女遊びを隣で見ていただけとは思えないような余裕の態度に我慢ならなくなったのは、俺が一度果てて、暁がそれを見て「そんなに好かったか?」と喉を鳴らした時だった。今になって思えば、彼女がずっと余裕綽々だったのは、単に年の功だとしか言いようがないのだが、折に触れて子供扱いされる上に夜の主導権まで握られて、此方ばかりペースを乱されているというのが昨日はどうにも許せなかった。くつくつと面白おかしそうに肩を震わせる彼女を思い切り抱き寄せて、薄いくちびるに自分のそれを重ねて黙らせる。「どうした」などとのたまう彼女の身体を、自分の下に組み敷いて、わずかにうねる胎内を少し乱暴に貫いた瞬間の、あの嬌声。暁は美しく綺麗な女であるはずなのに、あの瞬間ばかりはひどく可愛らしく見えて堪らなかった。その結果として、彼女の身体にいささかの無理を強いてしまったことは少し反省せねばならないところだ、と自分自身思っている。とはいえ彼女は長らく軍に所属していたというし、体力にも自信はあるようだからそう心配するようなことでもないだろう、と考えてはいるのだけれど。
「……」
 まだ寝てるしなあ、とそんな独り言が漏れる。普段ならとうに起きているはずの時間なのだ、今は。軍人時代の癖なのか、いつもぴしっと規則正しい生活を送る暁には珍しい寝坊に、昨夜の自分の暴挙が何やらひどく申し訳なくなってくる。無理なら無理と言えば辞めたのに、とそんなふうに考えて一つため息をついて。無防備極まりないその寝顔にそっと口付けて、「どうすっかなこれ」とシーツを押し上げるそれを見下ろして、また一つ息を吐いた。





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