月と青年

 どんなお味がしますか、と問うと青年は伏せていた瞼をぴくりと動かして「とても清い味だよ」と静かな声でそう言った。「清い味?」と問いを重ねると、「あぁ」と浅い頷きが返ってくる。
「清流の水のような、ひんやりとして澄み切った味。君は南極の氷で作った氷菓を食べたことがあるかい?」
 あんな味だ、と青年は言って、皿の上の月のかけらをひょいとつまむ。
「そういう氷菓は食べたことがありませんね」
「そうかい、それは少しもったいないね——」
 さくり、彼の口の中から月が砕ける音がする。「君もどうだい」美味しいよ、と皿を差し出されて、私は小さくかぶりを振った。
「それはあなたの月でしょう。どうぞ、あなたが召し上がってくださいな」




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