Spooky Night

「私は子供じゃないんだからハロウィンの仮装なんかしない」
 そう言っていたのは誰だっただろう、と煌は誰よりも本格的な仮装を身に纏った暁を見てため息を吐いた。彼女の少し後ろでは、揃いの魔女の衣装に身を包んだニコラとアンリが互いに菓子の交換をして、ついでにこれもと言わんばかりにキスを交わしている。二人が身につけている衣装も、そして今煌が押しに押されて袖を通しているドラキュラの衣装も、全て暁の手製だった。先の発言は、彼女に寸法を取るから部屋にこいと呼ばれて行った際に耳にしたものである。
「お前もやれよ」
 とその時はそうせっついたけれども、まさかこんな風に本格的な――おどろおどろしいゾンビの仮装をするとは思いもよらなかった。暁ははしゃいでこそいないが、怖いだろうとでも言いたげな、どこか誇らしげな雰囲気を醸し出しながら煌のことを見つめている。彼女の真紅の瞳は、全身に痣と拵え、血だの傷だのをリアルに再現した格好をしてみると、普段の美しさはどこへやら一変しておどろおどろしいものに見えた。

「暁さん、トリックオアトリート」
「お前、さっきも貰わなかったか……まあいいか」

 双子に甘い彼女はそう言って、マントルピースの上に置かれたキャンディポットから飴玉を一掴みして、ニコラたちが腕から提げているバスケットの中へ大体同じくらいの量になるよう、慎重に――それでいて大雑把にキャンディを落とした。
「煌さんも」と凛とした少し低い柔らかな声が聞こえた、と思うとすぐそばまでニコラがやってきていた。一切の物音を立てずどうやってやってきたのだろうと不思議に思いながら、「あー……トリックオアトリート?」とハロウィンの決まり文句を口にすると、ニコラはうっすら満足そうに空気を緩めて、今まさに貰ったばかりのキャンディをいくつか煌に手渡し、同じ台詞を繰り返して、今度はカップケーキをせしめ取った。
 先程暁から渡されたばかりのカップケーキが、煌の手からニコラの手に、そしてさらにアンリの手に渡って、そこで物流が停止するのを眺める煌にするりと暁が近づいて。
「トリックオアトリートだ」
 菓子の在庫はまだあるか?