ぼくは君を愛している、それは間違いがない。だからその拳を下ろして欲しいのだけれど、どうだろう、殴るか殴らないかぼくの話を聞いてから決めるというのは。最後まで聞いてみてそれでも怒りが収まらないって言うんなら、思い切り気の済むまで殴れば良い。君にはそうするだけの理由と、権利がある。――ありがとう、君の聡明な優しさに感謝を……「御託はいい」?そうかい、たまにはこういう言い方をするのもアリかなあ、なんて思ったけれど君は、いや、いや、ぼくが悪かった。
――……さてそれで、何の話だったっけ。あぁそうだ、ぼくと君の今後の話だったね、君はぼくのところへやってこようという気があるけれど、ぼくにはちっともその気がないって話だった。
あのね君、いま言っても信じてもらえるかわからないが、ぼくは詐欺師じゃないんだよ。中には結婚詐欺とかいう悪趣味なことをやる奴もいるらしいけど、ぼくは違う。人を騙くらかして利益を得る趣味はない。嘘も方便、と言う、それはわかる、嘘ってのは一番使いやすい道具だ。うまくやれば武器になる。けれど、ねえ、君、……やっぱり欺いて得た金というのは、気分が悪いよ。貯まるものも貯まらない。そんなものを手元に置いていける奴の気がしれないね。
君はどうだい――そう、理解が得られて嬉しいよ、ぼくの知り合いには何とも思わない莫迦もいるからねえ。……何にせよそういうわけで僕は詐欺をやらない。君をちゃんと愛している、誓うよ。誓うけど君をもらう気がないっていうのは、ぼくの稼業が真っ当じゃないからさ。ぼくのところへ来たらいよいよ君にも危険が及ぶ、これはわかるかい。それに君の親父さんも真っ当な――……「知らない」ってそれ本当に?これはまずいね、君、くれぐれも彼に話さないでくれよ。「どういうことなの?」……いや、知らないなら知らないままでいいよ、君も子供じゃないんだから、知らない方がいいこともあるって分かるだろう?これはそういう話なんだ、さ、いったん忘れてそのケーキでも食べなよ。せっかく食べたがっていたのを取り寄せたんだ、食べなきゃもったいない。
……美味しい?それはよかった。
ぼくの稼業が知りたいだって?君が親父さんに黙っておく代わりに?うぅん、あまり話したくないんだけど、君はぼくが話さなきゃ彼にばらすっていうんだね、……それならまあ、仕方ない。少しくらいなら。本当に少しだけなら、――ん、電話だ、君のじゃないかい。いいよ。この話、あぁ、ぼくの仕事の話だよ、これは急ぎじゃないからそっちを先に済ませてくれ、ぼくはここで待っているから。
――……もういいのかい、大丈夫だった?「ちょっと仕事の電話」、そう、休日だっていうのに大変だね。そうそう、それで、ぼくの仕事の話だった。……なんだか顔色があまり良くないね、どこか悪い?吐き気がする?それはまずいね、大丈夫かい、この話はいつでもできる、また今度でも――今がいいの。じゃあ、無理になったら言ってくれ。
僕の稼業というのはね、やっぱりちょっと話すには躊躇われるけど、君の頼みだから言うと、貿易商と何でも屋みたいなものなんだ。海外から商品を取り寄せて、それを特別なお客様に売っている。君の親父さんは、そうだな、でも顧客情報を漏らさないのが当然のマナー、ルールってもんだろう。だからちょっとそれは言えない。けどぼくが彼を初めて知ったのも仕事の中でだった。大したことじゃないけどね。それで何でも屋の方は――……あぁ、顔が青くなっている、毒が回ったんだね。……毒、毒だとも。大丈夫、君のそれは特別だ。特別優しい薬だから、親父さんほど苦しまなくて済む。
僕はね、君、頼まれれば盗み以外は何だってやるのさ。殺しだってそう。君のことはもちろん好きだ。愛してる。でもそれと仕事とは区別して考えるものだろう?
おやすみマイディア。いい夢を。