幕間





ゼンはほとんど人の形を保っていないクドリャフカと海に辿り着いた。とうとう声も発せなくなったクドリャフカと意思疎通はできないし、クドリャフカに意識があるのか、そもそも生きているのかすら、ゼンにはわからなかった。
「クドリャフカ」
 ゼンは抱えたクドリャフカに話しかけた。
「ニカはここにはいないみたいだね」
 海は凍っていなかった。ゼンは何百年ぶりに凍っていない海を見たのかわからない。
 海は深海のような群青色で、クドリャフカのかつての淡く澄んだ目とは似ても似つかなかった。
「もっと南に行こうか、海岸に沿って行こう。そうしたら、きっとすぐにでも見つかる。ニカは『待っている』と言ったから」
 ゼンは歩いた。
 死なないのをいいことに、開けても暮れても、重い体を引き摺って歩いた。気候はすっかり暖かくて、ほとんど毎日、柔らかな日差しが降り注いだ。
「クドリャフカ」
 返事はないが、クドリャフカに話しかけ続けた。
「ここらのコロニーの人はどうしてるかな。外に出て暮らし始めてるか、それとも誰も外に出ようとしないから、この変化にも気づけていないんだろうか」
 しばらくもしない内にゼンのカバンはクドリャフカの骨で埋まった。クドリャフカはただの肉塊に成り果てた。
「クドリャフカ、大丈夫だよ。お前がどんな姿になろうと、僕は君をニカに会わせるためにどこまでだって連れてってやるから」
 ゼンはボロボロに崩れたクドリャフカの頭部を抱きしめた。