最近、太刀川さんが変だ。
 ボーダー本部所属A級一位 太刀川隊に所属する出水公平は、ここ数日の自身の隊長を思い出してそう思う。
「変って何?どんな風によ」
 同じクラスで同じくA級の米屋陽介は、昼飯であるパンを齧りながら首を傾げた。三輪隊に属する米屋にとって、互いにA級ではあっても、太刀川は関わることがそう多い存在ではない。
「どんな…う〜ん」
 悩む出水を横目に見ながら、熱いくらいの日差しにもう夏か、と息をつく。カラっと晴れた天気だが、暑すぎると屋上には二人以外誰もいない。同校の三輪も普段なら昼食を一緒に取ることも多いが、先生に呼び出されているとかで今日はその場にいない。
「来るのが遅え」
「…はあ?」
「防衛任務に遅れてくることはないけど、最近本部に来るのが遅い」
 高校生である出水達よりも本部に来るのが早かった太刀川に、大学生だから時間に余裕があるのだろうと羨ましく思っていたのを覚えていたので、米屋も頷く。だが太刀川の授業の時間割りを把握しているわけでもないのに、さすがにそれは言い過ぎではないか。
「太刀川さんが、か?」
 ・・・確かに。
 思わず頷いてしまいそうになった米屋に、出水はしたり顔で笑い 卵焼きを口に放り込んだ。確かに誰よりも防衛任務、もといトリガーを用いた戦闘を好む太刀川が、好き好んで大学に残ったりするのだろうか。
「ん〜先生から呼び出しとか?」
 今ここにいない三輪を思い出してそうは言ったものの、その呼び出しの内容は三輪とは似ても似つかず…むしろ出水と米屋に近いのだろう。お世辞にも良いとは言えない自らの成績を思い出して米屋は苦笑を浮かべた。
「あー進学やばいとか?ありそう」
 隊員の容赦ない言葉。太刀川さん言われてますよ。そうは思うが、同じ穴の狢である。口には出さない。
「あーでも最近、携帯もよく見てるわ」
「太刀川さんが?」
 筆不精でグループメッセージでも最も既読が遅く、口達した方が早いだろうと噂の太刀川である。携帯を頻繁に操作している様子を想像して、米屋は怪訝な顔をした。
 だろ?とまた笑う出水はスマートフォンを操作して、太刀川の写る画像を米屋に見せる。その太刀川の手にはスマートフォンが握られており、米屋も出水の意見に同意した。
「こりゃ変だわ、太刀川さん」
「やっとわかったかよ槍バカ」
「へーへー、ならさっさと聞けばいいじゃん弾バカ」
「いや〜…」
 言いにくそうに頬を掻く出水。さっきから言うこと言ってんのに何を言い淀んでんだか。パンと共に買ってきたイチゴオレを飲み干せば、出水がため息を吐いた。
「まだ夏前なのに進学難しいとか言われたらどうしようかと思って…怖くて聞けない」
「……どんまい」
 出水の切実な思いに、口癖でからかうでもなく、米屋は励ましの言葉を投げかけた。


隊員から見た彼は
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