1
この食品メーカーに勤めてもうすぐ半年が経とうとしているが、毎月定期的に行われる朝礼というものは何度経験しても退屈な時間でしかない。直立したまま社長のありがたい演説を聞かされるのだってそうだし、各部署の業務報告は実情ベテラン社員に向けてのものばかりなのでどうしても興味に欠ける。
今日は家に帰ったら撮り溜めたドラマの一気見でもしよう、何から手をつけようか。なんて、頭の中で全く関係のないことを考えている人間はきっと俺だけじゃない。このオフィスに何人もいるだろう。
「続いて、本日付けで入社されました……」
総務部社員の声にふと顔を上げる。どうやら今日は新入社員の紹介があるらしい。今は9月なので中途採用であることは間違いない。ようやく与えられた新鮮な話題に、心なしか周りの人たちの顔も少しずつ上向いていく。
身長180cmの頭ひとつ分抜けた視界ではその後ろ姿だけが確認できている。周囲と軽くお辞儀を交わしながらお立ち台にあがっていくのが見えて、ほっそりとした首が特徴的だなと思った。
そうして彼がこちらを振り返ったその刹那、俺の世界も見事にひっくり返ったのだった。
「はじめまして、本日入社しました八木勇征です」
ずきゅん、と胸に矢が刺さったのがわかった。何なら一瞬だけ呼吸の仕方を忘れてしまった。艶のあるセンターパートの黒髪に彫りの深い目元、すらりと長い手足。彼は今まで出会った誰よりも美しい顔立ちをしていた。見た目だけで言えばとても近寄りがたい印象、なのに、喋り方はどこかふわふわして覚束ない。
どんな人なんだろう。彼をもっと知りたい、話してみたい。こんな感覚は生まれて初めてだった。放心状態のままぼうっとしていると、気づけば朝礼は終わりを迎えていた。
そう。つまり、このとき堀夏喜は。
一世一代の一目惚れというものをしてしまったのだ。