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衝撃的な一目惚れを果たした日からひと月が経った。なんと八木勇征は俺と同じ営業部に配属され、デスクはちょうど俺の目の前だった。けれどこれで仲良くなれるかも…なんて淡い期待はすぐに打ち砕かれた。新人教育やら何やらで毎日朝から退勤時までチームリーダーの大樹くんが付きっきりになっていて、とてもじゃないがまともに話せるチャンスなど落ちてすらいなかったのだ。

というわけでこの一ヶ月。八木勇征と交わした会話らしい会話は、コピー機の簡単な説明くらいである。それもあいにく俺の方に予定が詰まっていたのでかなり早足で。あとは俺が落としたペンを拾ってくれた事もあった。ボールペンについた埃を払って「どうぞ」なんて笑顔つきで。かわいい上に優しいなんてちょっと完璧すぎやしないか。
思いばかりが募るだけ募って、なのに一向に縮まらないこの距離にもどかしさを感じているのが現状である。

「はあー……」

誰もいない休憩所。残りひと口分のアイスコーヒーを飲み干して小さなため息をひとつ溢す。がらりと扉が開き、入ってきたのは総務部の世界さんだった。

「あ、お疲れ様です」
「おう、なっちゃんおつかれ」

自動販売機で紙パックのフルーツジュースを買い隣に腰掛けてくる。最近そっちはどうよ、まあぼちぼちです。取るに足らない会話を2往復ほど交わしたあと、世界さんはストローを飲み口に突き刺した。

「そういえばさ、新しく入ってきた八木勇征っているじゃん」
「はい」
「あの子なっちゃんと同い年なんだよ」
「えっ、まじっすか!」

思いもよらない共通点が見つかり、柄にもなく大きな声をあげてしまった。

「同い年で同じ部署だなんて貴重だよねー」

世界さんはそう言うと、それじゃ営業頑張れよ、なんて俺の肩を叩き休憩室をあとにした。目で追ったその背中の向こうには、ちょうど挨拶回りを終えて帰社したらしい大樹くんと、その隣に立つ見目麗しい男。噂によると八木勇征は、あの端正な顔立ちと中身の天然っぷりのギャップが営業先にかなりウケているらしい。こりゃ大物に育つぞ、なんて大樹くんが息を巻いている様子もよく目にしている。

「ふう。頑張ろ」

好きな子の中で、仕事ができない奴だなんてポジションになってしまっては元も子もない。空になった缶をゴミ箱に捨てて、残り3時間分の気合いを入れ直した。