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「うわっ、もう無いじゃん」

一人暮らしのキッチンに間抜けな声が響き渡る。食器用の洗剤が切れていることに気づいたのは、仕事が終わって帰宅して、風呂も夕飯もすべて済ませてしまってからのことだった。もう一回外出なきゃいけないのかよ、めんどくさ。朝のうちに気づけなかった自分をひとしきり恨み、パーカーを羽織って近所のコンビニへと向かった。
会計を済ませ足早にコンビニを出る。もう22時を過ぎる頃だというのに街はまだまだ賑わっていて、コンビニに行くだけとはいえもう少しまともな格好してくればよかった、と冴えないスウェットに目線を落とした。信号が青に変わり、人だかりが一気に動きだす。

「……あれ?」

ふと、向かい側から歩いてくる二人組に目を奪われた。一人はスーツを着た30代くらいの男、もう一人はゆるいシルエットのパーカーと黒のパンツ、深めに被った帽子の下にうっすらとその顔を確認できた。

「あっ」

彼だった。八木勇征がいたのだ。

スマホに目線を落とすスーツの男の隣を、俯き加減で気だるそうに歩いている。彼らは友達なのだろうか?…にしては、親しげな雰囲気が微塵も窺えない。

けれどそれに気づいたのはすれ違ってから数秒経ってからのことで、慌てて踵を返した時にはもう手遅れだった。行き交う人たちの影に隠れてその姿が見えなくなる。そうしているうちに青信号がチカチカと点滅を始めてしまい、俺は自宅の方向へ足を進めるしかなくなってしまった。
まさかこんな近所で会えるとは思ってなかった。もしかして彼もこのあたりに住んでるのだろうか。声はかけられなかったが、顔が見れただけでラッキーだ。その日はなんだか夢見心地のまま眠りについた。