5
迎えた金曜日。勇征と2人で退勤時刻のタイムカードを押したあと、駅前にある肉料理の店にやってきた。給湯室での一件を境に少しずつ増えた会話の中で、勇征は肉が好きだという有力な情報を仕入れたのだ。それに加えこの店を選んだのには、もう一つ大きな理由がある。
「すごい、おしゃれ……」
ドリンクのメニューをひとつずつなぞるキラキラした瞳に早くも有頂天気分になった。飲めないなら気分だけでもと、ノンアルコールカクテルが充実しているこの店を選んだのである。どれにしようかな、と楽しそうに迷っている様子がたまらなく愛くるしい。ここを選んでよかった。
「俺もノンアルにしようかな」
「えっ、なっちゃんは飲んでよ」
「いや俺あんま酒強くないし……」
「……そうなの?」
そういうことなら、と勇征はメニューを2人のあいだに置いた。なんかデートっぽくていいな、一緒にメニュー見るのって。読み上げるのに時間がかかりそうなカタカナの羅列には目もくれず、興味津々に身を乗り出している勇征をチャンスとばかりに眺めてみる。ひとりで甘酸っぱい気持ちに浸っていると、伏せられていた長いまつ毛がくるんとこちらに上向いた。
「俺これにする。なっちゃん決まった?」
「勇征と同じのでいいよ」
「……ちゃんとメニュー見た?」
「見たけどよくわかんねえし」
「えー、何それ」
――じゃあ、おんなじのにしよっか。
おんなじ。と、どこか嬉しそうに告げられたその甘美な響きに胸がぎゅっと締め付けられる。伝票片手にやってきた店員にカクテルの名前をすらすらと告げる、ピンク色のくちびるの動きがやけに色っぽくて目を離せなくなった。
「以上でよろしいでしょうか?」
「はい、とりあえずそれで」
「少々お待ちください」
感じよく店員に頭を下げた勇征がこちらを向き、一瞬だけびっくりしたような顔をした。
「なっちゃん?」
「あ……いや、なんもない。何食う?」
「肉!肉食べたい」
「メニューほぼ肉だわ」
「あ、そっかぁ。ふふっ」
くだけた笑い方にまた気持ちが加速する。普段会社で見るいかにも人当たりの良さそうな、要するに綺麗すぎるのじゃなくて、いわゆる等身大……と言ったらさすがに自惚れすぎだろうか。兎にも角にも互いのプライベートな時間を共有したことで、その晩俺は自分が勇征に抱く恋心を改めて再確認したのだった。