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その日をきっかけに勇征とは、仕事終わりにそのまま食事をして帰ることが増えた。同い年、お互い暇を持て余してる一人暮らし。勇征と過ごす時間は楽しいし、まるで昔からこんな風に仲が良かったかのような感覚になる。嬉しいことにそれはあちらも同じなようで、この間は「なっちゃんといると落ち着く」なんて言われたこともあった。
かなり良い関係を築けている、と思う。
付き合いたいという欲求はもちろんあるけど、同性の俺が告白なんてしたらきっとすごく驚かせてしまうだろう。こつこつと築き上げてきたこの関係が壊れてしまっては元も子もない。そんな思いもあって、告白はまだまだ先延ばしにしているところである。


「ごめん、行けなくなった」

スマホから聞こえてきた勇征の声にがっくりと肩を落とす。例に漏れず今夜も一緒に飯でも行くか、という流れになっていた。まだ仕事が残っているから先に上がっていいと促してきた勇征とは1時間ほど前に会社で別れたきりになっていて、俺は会社の近くにある本屋で時間を潰しているところだった。連絡もなしにここまで時間が経過した時点で既に少し諦めてはいたが、仕事がまだ立て込んでいるというのならそれはそれで心配だ。心なしか声も暗い気がする。

「大丈夫?」
「え?」
「いや、なんか声暗くね?」
「大丈夫。じゃあまた明日ね」
「あっ、ちょ……」

遮るみたく一方的に電話を切られてしまった。疲れてしまったのだろうか。それにいくらなんでも、ここ最近ちょっと誘いすぎてたかもなと反省した。勇征がいないのならどこかで外食するなんて気も起きず、適当に夕飯をテイクアウトして帰った。





翌日会社に出勤すると、向かいのデスクで勇征は至っていつも通りの顔をしてキーボードを叩いていた。

「おはよ」

PCの電源を入れて、起動を待つあいだに声をかけてみる。モニターの陰から気まずそうな顔がひょこんと出てきて、少しよそよそしい声で「……おはよ」と返された。

「昨日大丈夫だった?何かあった?」
「ううん、平気。ちょっと急用が入っちゃって」

ごめんね、と申し訳なさげに眉根を寄せている。なんせ好きなのでその急用とやらが何なのか物凄く気になるところではあるが、あまり深入りされるのも嫌だろう。ざわつく胸中を一旦鎮め、気にすんなと首を軽くふった。

「お詫びついでに、今日はうちで夜ご飯食べない?」
「え?まじで?……行く!」
「あ…でも大したもの作れないから、期待しないで」

嬉しい誘いに歓喜する俺を見て、勇征は顔の前でぶんぶんと手を振った。期待すんなって、そりゃしちゃうでしょ違う意味で。まあ尤も勇征は俺のことを恋愛対象として見てないからこそこんなふうに誘えるのだろうけれど。けれどちくりと刺さる棘に今は挫けてる場合じゃない。家に上がれるだけでなく、勇征の手料理まで食べられるとは。あまりの嬉しさに口角が吊り上がるのを抑えきれなかった。

「なっちゃん?」
「ん、何でもない。楽しみだなって」
「ふふ。うん、俺も」

ゆるい半月を描く瞳に胸がふわっと温かくなる。今日もかわいーね、なんて馬鹿みたいにおめでたい言葉を飲み込んで、俺は静かにPC画面へと向き直った。