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外回り営業から戻りエレベーターを待っていると、中から出てきたのは勇征だった。
「あ、なっちゃんおつかれ」
「どっか出かけんの?」
「うん。得意先いくつか回っておいでって、大樹くんが」
「もう独り立ちか。スパルタだな」
「ふふ、でも期待してもらえてるの嬉しいよ?」
「……そっか。頑張れよ」
季節は11月。ドアの向こうではひゅうひゅうと冷たい風が吹いている。コート一枚羽織っただけの格好がどうにも寒そうに見えて、俺は自分のマフラーをほどいて勇征の細い首元へ巻き付けた。大きな瞳が一瞬だけ見開かれて、だけどすぐに深いネイビーに口元を埋めてやわらかく微笑う。
「……あったかい」
「外すげー寒いから」
「うん、ありがと」
頑張ってくるね、と歩き出した眩しい笑顔に手を振る。あんなにかわいい反応してくれるなら、俺のマフラーなんてもう一生巻いててほしい気持ちになる。冷気にさらされてぬくもりを失っていく首元とは裏腹に、心がぽかぽかと温かくなっていくのを感じた。
*
営業部のフロアに戻ったあとはデスクで書類を作成したり、溜まっていた仕事を黙々とこなした。ふと気づけば窓の外ではすっかり夜が始まっていた。エレベーターの前で勇征を見送ってから、すでに半日ほどが経過している。
「勇征遅いな……」
隣でキーボードを叩いていた大樹くんがぼそりと呟く。
「そんなに遠くまで行かせたんすか?」
「まさか。徒歩圏内のところを2社だけだよ」
「え……」
だとしたら、こんなに戻ってこないのは遅すぎる。そう考えるより先に手が動く。ポケットからスマホを取り出し、ロックを解除したその瞬間。隣で大樹くんのスマホが鳴った。
「もしもし勇征?」
聞こえてきたその名前にはっとして指が止まる。大樹くんは訝しげに眉をしかめて、大丈夫か?とか、ゆっくり休めよ、なんて気遣うような言葉をいくつか投げかけたあと通話を切った。
「勇征ちょっと体調悪いからこのまま直帰するってさ」
「えっ」
「もう帰ってる途中だから心配いらないって」
心配いらないという言葉にひとまず胸を撫で下ろす。それにしてもさっき会った時はあんなに元気そうだったのに、何かあったのだろうか。そんなことを心配しながら、俺はその日勇征との関係が大きく変わってしまうことになるなんて想像もしていなかった。