「近すぎるってのも考えものだな…」
「なぁに?何か言ったー?」
「何でもないよ。食堂行こう」
「んー?ま、いっか。お腹空いたー」
何にも知りませんって顔しちゃって。
まぁ、知られてても困るんだけどね。
得意じゃないことに意識を支配されるなんて、苦痛でしかないだろうから。
そんな思い、させたい訳じゃない。
「おばちゃーん!A定食まだある!?」
「そんなに慌てなくったって大丈夫よ。はい。A定食ね」
「食堂でそんな大きな声出すなよ…恥ずかしいな」
「何でアンタが恥ずかしいの?関係ないじゃん」
「ぐっ…最上級生がそんなじゃ、後輩に示しがつかないだろ…!」
「何で?元気良い方が良いじゃん」
「っ…だからって限度が…」
なまえはとにかく元気が良い。
声もデカイし、よく通る。
笑い方も無邪気で、思ったことはそのまま口にする。
だから嘘がない。
そんな調子で、くの一としてやっていけるのか。
幾度となく思ってきたことだけど、案外要領も良いし、成績も悪くない。
実技は、だけど。
そんな彼女に、理屈っぽいアイツが敵う筈がない。
仕方ないから助け船。
僕ってホント優しい。
「おばちゃーん!僕らもA定食!二つね!」
「はい、A定食二つね。黒門くんは?」
「あ…B定食、お願いします」
「はいよ。皆仲良く、残さず食べんのよ」
「「はーい」」
僕らはいつも一緒に食事する。
僕らっていうのは、僕となまえと、三ちゃん。
ちなみに、二つ頼んだA定食の一つは、まだ来てない三ちゃんの分。
そんな僕らのお昼時に、最近よく入ってくるようになったのが、伝七だ。
「ごめーんお待たせー!」
「三ちゃん、お腹空いたよー」
「ごめんごめん。兵ちゃん、ありがと。さ、食べよっか」
三ちゃんが座ると、きちんと合掌してからA定食に箸をつける。
委員会で嫌と言う程やってきた為か、僕と伝七の動作は、順番や角度、その速度や間に至るまで、似通ってきてる。
僕らが一年の頃の委員長は、特に作法にうるさい人だったから、徹底的に叩き込まれたなぁ。
実家でもそれなりに習ってはいたけど、邪魔くさくって誤魔化しては、よく怒られてたっけ。
そういった所作だけじゃなく、僕と伝七は似てるらしい。
不本意極まりないけど。
でも、三ちゃんが言うんだから、そうなんだと思う。
…すっごく嫌だけど。
「あ、それおいしそう!ちょっとちょーだい」
「ホント食い意地張ってるよな…別に良いけど」
「やったぁ!ありがと!じゃ、遠慮なく」
「なっ…お前それ全然ちょっとじゃないだろ!僕の分がなくなる!」
「え、そう?ごめんごめん。代わりにこれあげるー」
「…お前が嫌いなだけだろ」
「あ、バレた?良いじゃん、伝七それ好きでしょ」
「…しょうがないな…」
「わぁいよろしくー!」
日常化してきたこの会話。
しばらく前までは、僕としてた筈のやりとり。
…あぁ、また一緒か。
面白くないな。
似てるのは百歩譲って良いとして、僕の方が遠いだなんて。
「兵ちゃん、眉間に皺寄ってるよ」
「…三ちゃん」
「自業自得。だから僕は言ったでしょ」
「…分かってるよ」
「…兵ちゃん、諦め悪いのが、僕らの長所だよ」
「……うん」
「人生、何とかなるもんだと思うんだよね。何が起こるか分からないよ。僕にも兵ちゃんにも伝七にも、なまえにも」
「……分かってる」
知ってたよ。
それこそ下級生の頃から。
ウジウジしてる伝七を焚きつけたのは自分だし、さりげなく口裏合わせたり、協力してる。
だって、あり得ないって思ったんだ。
伝七がなまえを振り向かせるなんて、出来る訳ないって。
今のふたりは、恋仲って訳じゃない。
だけど、幼い頃よりはずっと近くて、何かが変わってきてる。
変わりっこないって思ってた関係が、じわりじわりと。
「…兵ちゃんの優しさは、長所だけど短所だね」
「…何、それ」
「兵ちゃんは賢いのに馬鹿だからさ。肝心なところでズルくなれないからね」
にっこりと、柔らかく笑う三ちゃんが好きだ。
一緒にいて落ち着くし、安心する。
そのままの僕でいられる気がするから。
たぶん、なまえも同じ。
だから、彼女が笑ってられるなら、何でも良いかな、なんて、思ったりもする。
…でも、三ちゃんの言った通り、諦め悪いのが僕らの長所だから。
もう少し、足掻いてみようかな。
「兵ちゃん兵ちゃん!明日座学の追試あるの忘れてた!教えて!」
「また?僕もそんなに暇じゃないんだけど…」
「えぇー!?だって兵ちゃんの教え方好きなんだもん」
「ホントなまえはしょうがないよね…。良いよ、放課後、作法室来なよ」
「ホント!?やったぁ兵ちゃん大好き!」
「調子良いんだから。僕が忙しい時は、伝七にでも聞いて」
「分かった!」
「なっ…!何で僕まで…!」
「伝七もよろしく!」
「っ…仕方ないな」
…あーあ、僕って何で、こんなに優しいんだろ。
嫌になっちゃうよ。
(こんな筈じゃ、なかったのに)
近くて遠いって、こういうことか
***
H23.7.17
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