ぎゅっと抱きしめる腕は弱々しい。
兎の目のように赤く泣き腫らすことはないけど、時折、静かに涙を流していることを、僕は知ってる。

いつからだったかな。
こんな風に、痛くて、苦しくて、壊れそうになった時、なまえ先輩が、僕をそっと抱くようになったのは。

ただ、本当にそっと、僕を包み込むだけ。
触れているのに、今にも消えてしまいそうな程、優しく。

僕は黙って、抱きしめられるだけ。
自分から手を伸ばしたりしない。
彼女が、それを望んでいないのが、何となく、わかるから。



「…三ちゃん」

「なぁに、なまえ先輩」

「…ごめんね」

「何のことですか?」



いつも、そう。
なまえ先輩は、ごめんね、と言う。
いつも僕は、とぼけてみせる。
すると先輩は、少しだけ、ふっと空気を緩めて、ありがとって言うんだ。
僕は、それがとても好き。
まるで、僕となまえ先輩だけの秘密みたいで。



「…三ちゃん、ありがと」

「どういたしまして、なまえ先輩」



ほら、今日だって、そう。
だけどね、少しだけ、ううん、ホントはすっごく、僕だって痛いんだ。
でも僕は、どんな時だって、にっこり笑えちゃう能力を持ってる。
きっと先輩も、僕に騙されてくれてる。



「…あのね、」

「うん」

「…一月後に、決まったの」


まだ一年生だし、先輩とは四つも歳が離れてるし、体だって小さい。
僕に力がないことなんて、誰が見たって明白だ。

分かってる。
そんなの、誰よりも、自分が一番感じてる。

だけど、ねぇ、なまえ先輩。
小さな体だから、先輩の、小柄で細い、その腕の中に収まることが出来るし、僕が幼いから、弱い姿だってさらすことが出来るんじゃないかって、思うんだ。

ねぇ、なまえ先輩。

…どうしても、あの人じゃなきゃ、駄目なの?



「…そう、ですか」

「…うん」



僕を抱きしめる手が震えてる。
そんな彼女を抱きしめられるのは、僕じゃなくて、
大きくて、あったかくて、力強い、太陽みたいな、あの人。

何より、彼女が、それを望んでいるから。

…こんなにも、僕には、先輩のことが分かるのに。



「…三ちゃん」



ねぇ、なまえ先輩。



「何ですか?」



僕に、言ってよ。



「…私のこと、」



行きたくないって。



「…忘れない、でね」



お嫁になんて行かずに、僕の傍にいて。


あの人じゃなくて、


僕のとなりに。



「当たり前じゃないですか」



にっこり笑う僕なんかに、騙されないで。



「…ありがと」



だけどね、なまえ先輩。

僕はこどもだから、わからないフリしてあげる。


何より、あの人がさらってくれることを、あなたが望んでるって、知ってるから。





優しいこども





***
H23.8.7

臆病なケモノと繋がってます。

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