暗い。
狭い。
ついでに言うと、埃っぽい。

隅っこは好き。
何だか落ち着くから。

日向より、日陰が好き。
光って、眩しくてうるさいから。

人気の少ない、むしろほとんど無いくらいの場所が良い。
更に言えば、その端っこに、小さくうずくまっていたい。

その願望通り、私は、とある倉庫の一角に座り込んでいる。

光は差さない。
冷たくて、静か。

心の芯の辺りが、すうっと冷えていくのを感じた。

…ここが火気厳禁なのは確かだけど、水気はどうだったかな。
濡れちゃ、まずいっちゃまずいだろうけど、この程度なら許容範囲?

音にすることなく、頭の中で問いかける。
だから、誰にも伝わらない。

いつだって、そう。

私には、ちゃんと口がついているし、耳で音を拾えるのだから、言葉を話すことが出来る。

だけど、折角のこの能力を、使いこなせないでいる。

それはきっと、私が、心を鍛えることを怠ったせい。
勇気だとか度胸だとかを、身につけることなく、ここまで来てしまったから。

だから、お門違いも良いところ。
わかってほしい、だなんて。

…なのに、ね、気付いてくれる人が、いるの。
いつも、どうして良いか分からなくて、一頻りわたわたとした後、また、こぼしてしまう。

…ほら、足音が聞こえる。
控えめで、柔らかい、あの人の音。



「…あ」

「………」

「やっぱり、ここだったんだ」

「…あ…、え、と…」

「隣、座っても良い?」

「あ……、はい…」



ゆっくりと、私の右隣へ腰を下ろした彼は、とても静か。
だけど、あったかいし、独りでもない。
この壁や、私の心のように、冷たくない。

不思議なのは、うるさくないのに、明るいこと。

どこもかしこもを照らしてしまえる光じゃなくて、私の奥の方に、そっと、小さな灯りを分けてくれるような。



「みょうじさん」

「……は、い…」

「もうしばらく、ここにいても良い?」

「っ……あ、…はい…」

「あ、嫌な時は言ってね」

「そっ、んな、ことは、ない、です…」

「良かった」



彼は、姿勢が良い。
細身の体をすっと伸ばして座る姿は、凛としてる。
それでいて、ふんわりとした、やわらかい笑みを絶やさない。

私にとって、彼の存在は、不思議で仕方がなかった。



「みょうじさんは、本が好き?」

「えっ…あ、…好き、です」

「そっか。僕も好き」



何だか、心臓の音が近くに聞こえる。
自分に向けて言われた訳じゃないのに…。

言葉って、なんて強い力を持ってるんだろう。
私はいつでも、翻弄されっぱなし。



「ここ、落ち着くね。本がたくさんあるからかな」

「……そう、ですね…」

「…みょうじさんだからかな」

「っ……え…」

「あ…ごめん。…こんなこと言ったら、笑われるかもしれないけど、」



もしかしたら。
そんな考えが、頭をよぎる。
そのひとつひとつが、優しくて、丁寧な人。

そんな人でも、私と同じようなことを思ったりするんだろうか。



「…さっき、みょうじさんが、好きって言った時、ドキドキしちゃって…。へ、変だよね。僕のこと言われた訳じゃないのに…」

「…あ…、わた、し、も…です…」

「えっ…そっか…。なんか、嬉しいね」



照れくさそうに、仄かに頬を染めて笑う彼は、綺麗だった。
そう思うのと同時に、うるさくて仕方がない心臓の音に気付いてしまった。

この空間で、好きじゃない筈の喧しさを持っているのは、誰でもない私みたい。

だけど、そんなこと、どうでも良くなってしまいそうな程、今、顔が熱くて、呼吸がしにくい。



「…みょうじさん」

「っ…は、はい…」

「また、お喋りしようね。楽しかった。ありがとう」



あぁ、もう、駄目だ。

強すぎる光は、いつも眩しすぎて、直視出来ないでいた。
だけど、彼は、確かに明るいけど、ちゃんと向き合うことが出来る。

近付くことが、出来る気がした。



「……、う」

「え…?っ、みょうじさん、泣い、てる…?ご、ごめん…!僕が変なこと言ったから…!?」

「ち、ちが…う、…」

「…違う、の?」



恐る恐る、そっと背中を撫でてくれる手のひらの温度が、心地良い。
今日だけで、何度目か分からない涙が、ぽたぽたと足下を濡らした。

感情が高ぶったままの私は、どうしても、どうしても、言いたいみたい。

きっと、彼なら、受け止めてくれる。
そんな気がしたから。



「…あり、がとう」



そう言って、初めて彼の目を見た時、予感は確信に変わった。






あなた希望でした






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H23.11.30

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