「…声、かけたら?」
そっと伸ばしかけた手を、引っ込めてはまた伸ばし、その繰り返し。
何度も、何度も。
僕の言葉にも、小さく頭を振るだけで、目線はずっと変わらず、小さくはない手に、ぎゅっと力をこめていた。
「…何かしなきゃ、始まらないよ」
それは、彼女へ向けた言葉だったのか、僕自身への皮肉なのか。
どちらにせよ、僕らには必要なことだろう。
思い描く未来を、手に入れたいのなら。
「…庄なら、声をかける?」
小さく、そのくせ、よく通る声で、彼女が言うものだから。
どうにも誤魔化しようがなくなってしまった。
難しい、質問だな。
「…そうだね。どうしても、ほしいのなら」
いずれは、ね。
音にせず、舌先に留める。
今はまだ、時ではないと、知っているから。
先のことなんて、誰にも分かりっこない。
それは、委員会の先輩にも、先生にも、勿論、僕たちにも。
だけど、未来にも、実現する可能性の高い低いがあって、恐らく、僕の思う未来が"高い"で、彼女の思う方が"低い"だ。
だから僕は、その未来が訪れる日まで、待つ。
君を、しっかりと離さずにいたいから。
「…そう、よね」
今にも泣き出しそうな顔をして、自分の級友の背中を見つめる姿は、なんと儚いことか。
決して華奢ではなく、程良く引き締まった体つきをしている。
彼女がずっと、この学園で積み上げてきたもののひとつだ。
気丈に振る舞い、弱さを見せることを嫌う彼女は、彼女の想い人の好みかと言えば、そうではない。
だけど、この健気さや儚さを、彼が知ってしまったら。
展開は劇的に変わるのかもしれない。
僕は、それを望まない。
どんなに彼女が望んでいたとしても。
「…話なら、聞けるから。何でも言って良いんだよ」
「…庄は、甘やかすのが上手いから、嫌」
顔を背けて、拗ねたように言う姿は、とても愛らしいけれど。
君は、いつもそう言うよね。
僕が甘いのは、君に対してだけなのに。
だけど、君がそれを苦手だと感じていることも知ってる。
だから、アイツが良いんだろう。
優しさも厳しさも、程良く持ち合わせているから。
「なまえ」
少し冷たくなったなまえの手をとる。
両手を、ふんわりと包み込むように重ねるのは、僕と君の距離だ。
決して高くはないけれど、僕だって温度を持ってる。
ねぇ、早く、気づいて。
「僕が話しかけるから。なまえは一緒についておいで」
小さく目を見開いて、少し伏せた後、彼女は、普段はあまり見せないような優しい色で、やわらかく笑ってみせた。
「…ありがとう」
一体、いつまで続けるつもりなんだろうね。
時間はもう、残されていないのに。
こわいのはなぁに?
***
H24.3.9
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