気味が悪いくらい、おもってる。

それは何故かなんて、こっちが聞きたい。


『みょうじはないな』


その言葉通りに、思えたら。


たとえば、刺々しい物言いにくるまれた気遣いだったり、気の強さに紛れさせたか弱さだったり。

考えれば考える程、逃げ場はないと、真実を叩きつけられているようで、痛い。



「孫次郎、学食行く?」

「いや、今日は買って来た。平太は?」

「弁当。じゃあ、教室で食べよっか」



平太の言葉に頷きながら、意識を斜め後ろに向ける。

控えめに見つめている視線を、確かめる為に。



「今日はこっち〜?」

「うん、伏木蔵は弁当ある?」

「うん。怪士丸もだよねぇ」

「うん。あ、なまえちゃんはお弁当?」

「えっ!?う、うん…」

「良かったら一緒に食べない?」

「えっ、いや、でも…」

「おいでよ〜。みょうじさんのお弁当見たいなぁ」

「伏木蔵、なまえちゃんのおかずとっちゃダメだよ」

「ふふ、バレてたんだぁ」

「そうやっていつも平太のおかずとってるでしょ」

「貰ってるんだよ〜」

「それは屁理屈」

「まぁまぁ。ほらぁ、みょうじさん早く座って〜」

「え…あ…、はい…」



いつもの涼しい顔はどこへ行ったのか。

おどおどと、不安げに様子を窺う姿なんて、自分には見せない。

そわそわと、落ち着き無く目線を彷徨わせるなんて、キャラじゃない。

…彼女が何故、こうなっているのかも、何故、自分の中のイメージと異なっているのかも、よく、知ってる。

ほら、また、痛んだ。



「みょうじさん、椅子」

「っ、あ、ありがと…」



彼女は、酷く真っ直ぐな人物だ。

少なくとも、自分はそう認識してる。

臆することなく、人や物事を、真っ正面から見据えている。

話をする時なら、尚更。

だから、彼女が、目を合わせずに言葉を交わすなんて、珍しいどころの話じゃない。

苦手だと零していた伏木蔵に対してでさえ、目を逸らしはしない。

それだけで、どれだけ特別かが分かる。

彼女にとって、平太は、特別。



「なまえちゃん、お茶どうぞ」

「ありがとう」

「みょうじさん、それ、おいしそうだね〜」

「…要るんならそう言えば?」

「わぁ、くれるの?ありがと〜」

「こらっ、伏木蔵!」

「怪士丸、良いよ。代わりにこっち貰うから」

「うふふ、みょうじさんって分かってるよねぇ」

「あっ、僕の…」

「平太のお家の卵焼きって、ホントおいしいよね〜」

「もう…孫次郎も止めてよ」

「あぁ、ごめんごめん」



すっと馴染んでいるようで、どこかで糸が張り巡らされているような。

伏木蔵が口を開けば警戒し、怪士丸が喋れば安堵する。

平太が発言すれば、糸のテンションは最高潮だ。

…それなら、自分は、

彼女の琴線を、かすめることすら出来ず、何をしているんだろう。

そもそも、自分がどうしたいのか、それすらも曖昧で。

あぁ、もう、めんどくさいな。

どうせ手に入らないなら、消えてしまえば良いのに。

この手で握り潰すことも、当たって砕けることも、遠くに放り投げることも、今の自分には出来やしない。

精一杯、見ないフリ。

そんなものはなかったと、思い込もうとあがくだけ。

そんな曖昧さを、彼女が嫌うことも、知っているけど。



「…初島、はい」

「…貰っておいてあげるよ」



そのくせ、ほら。

どうして、

そんな風に、

可愛い弱さを見せるんだろう。

他意なんて、きっとない。

伏木蔵よりは近づきやすく、怪士丸より遠慮が要らない。

平太よりずっと、緊張しない相手。

きっと、ただ、それだけ。



「ありがと」



その、小さな笑い方。

落ち着いた声色。

逸らしはしない、その、目。


ほら、そうやって、俺をとらえる。



本当は、知ってる。

逃げ腰なこの思想は、

動く前から諦める、軟弱な精神は、

その声に、

その目に、

貫かれることを、切望しているんだって。


だけどさ、どうしようもないんだ。

知っているのに認めようとしないことを、

臆病って言うんだから。



嫌いなものなら、いくらでも貰ってあげる。

罵詈雑言でも、腐りきった心でも、

キタナイモノは、全部、俺の担当で良い。


だから、どうか、





(ただ、そこにいて)











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H25.4.8

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