「ねぇ、どうなの?」



身を乗り出して、楽しくて仕方がないと言う顔をする。
何をそんなに期待しているのか。

私の目の前に座る男―善法寺伊作―は、お節介にも程があると言いたくなるような男である。

好奇心が旺盛であり、余計なことに首を突っ込んでは、要らぬ厄を貰ってくる。
そして、自らは勿論のこと、その周りの人間にまで、面倒事が降りかかってくることもしばしば。
なかなか厄介な存在だが、人の好さは群を抜いている。
…まぁ、いい加減なところもあるんだけど。

彼、善法寺伊作は、誰がどう見ても変わり者であるが、その友人を続けている私も、十分変わっているらしい。



「どうって言われてもねぇ」



何だか女子と話しているような気分になる。

比較的、少なくとも私よりはきゃぴきゃぴしたタイプだとは思うが、それにしてもはしゃぎすぎだろう。

余程、例の後輩くんが可愛いらしい。

…確かに、えらく可愛い子だったけど。

ツボに入ったのか何なのか、その、例の彼との付き合いが、もうすぐ三ヶ月を迎えようとしているなんて。

人生、何があるか分からない。



「左近とは会ってる?うまくいってる?」

「会ってるよ。それなりにはやってると思うけど」

「どれくらいの頻度で会ってるの?ご飯とか作ってあげてる?」

「多くて週1、大体は2週間に1回ぐらいかな。左近くんの家に行くことが多いから、会った日は大体作ってるよ」

「左近、細いの気にしてるから、いっぱい食べさせてやってね。で、どこまでいったの?」

「作った分は残さず食べてくれてるよ。そっちはノーコメント」

「えー!良いじゃん教えてよ!隠すような仲でもないでしょ」

「なんかヤダ」

「ケチー!」

「お前ら、何の話してんだよ…」

「あっ、遅いよ留さん〜」

「わりぃな、ちょっと園児同士でトラブルあってさ」

「大変そうだね、おトメさん」

「まぁなぁ。どんな仕事でも大変なことはあるだろ。ってかお前、おトメさんはやめろって」

「無駄だよ留さん。大学時代に何度言ったって直らなかったじゃない」

「…それもそうだな」



互いに遠慮は無用、と言った間柄だから、楽と言えば楽。

よく知りすぎてると言えばそうだから、偶に怖くなることもある。
少しだけ。

それだけ、痛いところを突かれやすいってことだから。



「とりあえず何か頼みなよ」

「生で良いでしょ?すみませーん!」



高すぎない伊作の声は、人に好感を持たれやすい。
まして、顔が良い。
目鼻立ちが整ってる。

故に、女子にはとってもおモテになるのだ。

初対面であったり、交流が薄ければ薄い程、それは増す。

しばらく付き合えば、大体の女性は去っていく。

…ついていけなくなるから。



「伊作が人の話聞かないのも、直りそうにないでしょ」

「そうだな…。すいません、生」

「あっ、僕も!なまえは?」

「ウーロン茶で」



注文を復唱して、厨房へと引っ込んでいく店員さんを見送る。

心なしか、私と伊作の二人の時よりも顔が綻んでいた気がする。

なるほど、彼女はおトメさんの方が良かったか。

伊作ばかりでなく、おトメさんも大層おモテになる。

外見の良さもあるが、彼もまた、なかなかのお人好しだ。
仕事にしてしまうくらい子供好きだし、面倒見が良い。
頭に血がのぼりやすいのが難点だが、齢を重ねる毎に、穏やかになって来ている、らしい。
伊作曰く。



「あれ、なまえ飲まないの?」

「明日も仕事だし。さっき飲んだから、自重」

「俺も今日は控えめにしねぇとなー…明日は教室の飾り作んねぇと」

「えぇー留さんもー?じゃあ僕も良いや。あっ、そうだ!そろそろ鍋も良くない?」

「あぁ、おトメさん特製の?」

「そうそう!」

「やっぱり俺かよ…」



おトメさんの部屋は、大学時代からの、私たちの溜まり場だ。

小綺麗に片付いた部屋は、モノトーンで揃えられていて、何とも落ち着くので、ついつい長居してしまう。

それも、そろそろ控えないとなぁ、と話していた矢先なのに。

あの居心地の良さは、簡単には忘れられないらしい。



「鍋すんのは良いけどよ…俺の部屋はナシな」

「えー!?留さん家じゃなかったらどこでやるのさ!」

「伊作ん家で良いだろ」

「えっ、おトメさん、本気で言ってる…?」

「…なまえ、その言い方、なんか悪意を感じるんだけど」

「だって…伊作の部屋って」、ねぇ…?」



伊作の部屋とは、あまり口に出したくないような惨状、と言いますか…、
まぁ、とにかく汚い。

不潔、と言うよりも、整理整頓が出来ないくせに物がやたら多い。
医療関係の書籍や、仕事関係の紙類が、それはもう多い。

ゴミは気になるらしく、こまめに捨ててるみたいだから、それだけが救いだけど。

何度片付けてやっても、すぐまた散らかすものだから、とっくに諦めてしまった。

あの時の虚無感ったらない。



「伊作の部屋でやるくらいなら、私の部屋の方がマシでしょ」

「それは駄目」

「何でよ」

「なまえは女の子なんだから。彼氏でもない男を、簡単に部屋にあげちゃ駄目」

「え、今更じゃない…?」

「駄目なもんは駄目なの!鍋は僕ん家ね!」

「えー…あの部屋をまた片付けんの…?」

「…なまえ、俺もやるから、な?」

「…おトメさんがそう言うなら…」

「ちょっと二人共、言いすぎじゃない!?」

「「いや、事実だから」」



そういえば、この男は、変なところばかり、よく気にしていた気がする。

でも、彼のストッパーであるおトメさんが何も言わないから、たぶん、従っておいた方が良いんだろう。

あの、本と紙で出来た海のような部屋に、再び足を踏み入れるのかと思うと、軽く目眩がした。





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H25.12.4
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