鐘が、鳴った。

ただ、それだけのことだったんだろう。

暗示にでもかかったかのような彼が、目を醒ました。

と同時に、私の夢も終わりを告げた。

ただ、それだけ。


なんて、良い夢だったんだろうか。

彼が、私を、ずっと見てくれていたなんて。

私に、笑ってくれていたなんて。

…それなのに、私ときたら、全然笑わない。

うまく、笑えない。

緊張と、喜びと、不安と、期待と、怯えとが、ない交ぜになって、ぎゅっとぎゅっと押し固められ、体へと伝わっていたような。

強張った頬で、笑えない。

空ろな目なんて、合わせられない。

真っ白になった頭では、言葉も探せない。


…どうしてあの時、首を縦に振ってしまったんだろう。

ずっと、ずっと我慢してきたのに。

あまりに嬉しくて、たまらなくて。

頭なんて回ってなくて。

ただただ、心の叫ぶままに、頷いてしまったから。



「…ごめん、なさい、」



ごめんなさい、ごめんなさい、
好きになってごめんなさい、
見ているだけで良かったのに、
遠くから見ていられたら、十分だったのに、

せめて、あの時、断っていれば、
恋人同士なんてものにならなければ、
こんな思いをせずに済んだのに、
あんな、嫌な思い、させずに済んだのに、

…自分なんて何でも良い。

彼に、あんな顔をさせてしまった。
虚無感の色濃い、疲れきったような。

彼の大事な時間を、たくさん、奪ってしまった。

…こんなことなら、もっと早く、曝け出して、幻滅されてしまえば良かった。

なんだ、こんな女か、と分かれば、彼だって、もっと早く見限れたのに。

…嫌われたくないと、出来るなら愛されたいと、思ってしまったから。

そんな欲で、自分を守ろうとしてしまったから。

…彼が、被害を被る羽目になってしまった。


…この罪は、どうすれば、償えるだろうか。

もう、彼には、忘れて貰うしかない気がして…、

彼とは今後一切、関わらない。

出来る限り、私と言う存在を消して生きるしかない。

こんなことしか、きっと出来ない。


申し訳ない気持ちでいっぱいなのに、目を閉じれば、笑いかけてくれた彼の姿が浮かんで、視界がぼやけてしまうから。


本当に、どうしようもない女だと、

またひとつ、罪を重ねてしまった。





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H26.6.18
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