「眉間にシワ、寄ってるよ」



ひょこっと、覗き込んで来る顔に、現状を思い出す。

あぁ、また、聞いてないでしょ!なんて言って怒るんだろうな。

何かが似ていて、でも、全然違って。

だから、満たされる訳じゃないのに、求めてしまう。

そんなことを繰り返すのにも、疲れてきた。

…代わりで穴を埋めようなんて、無理があったのかもしれない。

けど、そんなに大きな存在になっていた理由が、その意味が、どうしても分からない。



「…ん、悪い。どこまで話した?」

「左近ちゃんの彼女が料理上手だってトコまで」

「あぁ、そうだそうだ。だから、付き合い悪くなったんだよ、アイツ」



付き合ってる彼女と、うまくいっているらしい。
でも、同棲は、卒業するまではしない、って言ってたな。
左近は薬科大だから、あと一年弱か。

…自分がこんな状態でも、人が上手くいってることに対して、僻むことはないみたいで。

それは、救いだな。

相手が、左近だからかもしれないが。



「…、お兄ちゃん、」

「ん?」

「…無理しなくて良いよ?」



不安気に、窺うように見上げて来る妹と目が合って、気を遣わせてしまっていたことに気づく。

悪いことしたな、そう思うと同時に、少しだけ、安心する。

…この感覚が、どこか、懐かしく思えてきて、



「大丈夫だから、心配すんな。ありがとな」

「…そんなに、好きだったの?」



訝しげに、眉を寄せて問う声は、最近の自分を色濃く映している気がした。

暫くは、我慢したんだろうな。

俺があんまり引きずるから、堪らなくなって、口をついて出た、そんなトコだろう。



「…どうだろうな、分かんないんだ、自分でも」

「お兄ちゃんなら、いくらでも相手いるじゃん。何がそんなに良かったの?美人だったから?お兄ちゃん、可愛い系のがタイプじゃなかった?左近ちゃんも久ちゃんも心配してたよ?二人とも不思議がってたし…。お兄ちゃん、カッコイイし優しいし、頭も良いしスポーツも出来るし、凄いんだよ?もっと高望みしたって、高望みにならないんだよ?」



押し込んでいたものが、制御しきれずに雪崩れ込んでくる、そんな感じだ。

俺だってそうだけど、コイツはブラコンだから、兄のことを案じてくれてるんだろう。

…その通りだと、思う反面、彼女が否定されているように感じて、小さな憤りが、じわじわと湧いてくる。

違う、アイツは、あんなだけど、俺は好きだったんだ。

俺にとっては、誰よりも可愛い女の子だった。

…口にしないまでも、そう、はっきりと言い切れたことに驚くと同時に、今までずっと、頭にチラついていた違和感に気づく。

俺は、確かに、アイツを、なまえを好きだったし、可愛いと思ってた。
傍にいてほしかった。

そうだ、最初からあぁだった訳じゃない。
アイツは、変わったんだ。



「…お兄ちゃん?」



不安げな声色と瞳に気づいて、今に引き戻される。

言い過ぎたんじゃないか、そんな風に思ってしまいそうだ。

可愛い妹に、これ以上気を遣わせたくはない。



「…そうだな、サンキュ」



ぽんと、頭に手を置いて、軽く撫でてやる。

すると、憂いがかった空気が、少しずつ溶けていくのが分かって、安心した。


いつまでも、同じようなことばかり思考していても仕方ない。

もう、動ける。


妙な確信を持って、そう思った。






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