頭ん中でごちゃごちゃ考えるのはやめた。
考えるから、言えなくなるんだ。
カッコつけようとするから、肝心なことが、言えなくなるんだ。
ぼろぼろと泣き出したなまえに、少し、満足する。
まずは、一つ目。
前の俺なら、これで満たされていたかもしれない。
でも、今は、これじゃ終わらせない。
絶対、言わせてやる。
じゃなきゃ、前になんか、進めやしない。
俺は、そんなこと、望んでない。
「なまえ、」
そっと、両手で頬を包んでやると、はっと息を詰めては、視線を逸らす。
…気に入らない。
この後に及んで、まだ隠すってのか。
俺は、こんなにさらけ出してんのに。
…恥ずかしくないとでも思ってんのかよ。
「…なまえ、思ってたこと、言え。全部。言うまで帰らない」
大きく目を見開いて、おろおろと視線をさ迷わせる様は、なかなか面白い。
だからって、許す訳じゃないけど。
たとえ、結果がどうなったとしても、はっきりさせたい。
それは、俺だけじゃなく、なまえの為にもなると、勝手だが、確信してる。
…ここさえ踏み出せば、
「…なまえ、逃げられると思うなよ。言うまで帰らないからな」
ビクッと、肩が跳ねる。
…そういえば、こんなに至近距離で見たことは、ほとんどなかったな。
顔立ちは整ってるし、眉をハの字にして狼狽える様は、可愛い。
少しずつ、思い出して来た。
好きになって、すぐの頃のこととか。
まだ、気になってる段階の時のこととか。
もっと、普通に、笑ってたよ。
特別、なんて思うまでは、本当に、何とも思ってなくて、ホント、普通の同級生だった。
「…なぁ、覚えてるか?クラスで花見した時、お前が言ったの、」
すっと手を離して、頭を撫でてやる。
あんなに分からなかったのが不思議なくらい、今は、感情が分かりやすい。
こんなに、素直だったんだな。
「『何で全部池田がやってんの。おかしい。』って、」
『気づかなくてごめん、今からでも出来ることある?』っつって、他の奴らを慌てさせてたのを、思い出した。
あれが、たぶん、最初、
「言い出しっぺは俺らだったし、いつものことだし、任されるの嫌いじゃないし、とは思ってたけど…、お前が言ってくれて、嬉しかったんだよ。たぶん、ずっと、気づいてほしかった」
いかにも頑張ってます、って見せるの好きじゃないし、うまく隠してた、とは思う。
だから、気づいてほしい、なんて、おかしな話なんだけどさ。
久作や左近は付き合いが長いし、分かってくれるけど、アイツらじゃない、まして、女の子が、分かってくれるとは思わなくて。
確か、そこから、意識し始めた。
話す機会も、自分から増やしたし、イベント事には真っ先に呼んで、相談とか言って、二人になれる時間作ったりして。
…あの頃は、はにかんだり、呆れたり、声あげてけらけら笑ったり。
お互い、そのままでいられた。
戻りたい、って言うんじゃない。
進みたいんだ。
出来てたことを、また、出来るように。
だって、お前だって、望んでるだろ?
「…まーた泣いてんの。そろそろ泣き止めよ。ほら、話しよーぜ」
「…、」
言いかけて、止まってしまう。
引っ込めるなよ、
そのままで良いのに。
「…嬉しい、のは、私、の、方…」
涙は、まだ止まらない。
むしろ、増してないか?
こんなに、脆くて弱い子だなんて、知らなかった。
もっと、気丈で、サバサバしてると思ってた。
勿論、持ってはいるんだろうけど。
その奥に、こんな、ガラスみたいに繊細なもの、隠してたんだな。
「お互いそう思ってんなら、良いじゃん」
「…でも、さぶ、ろうじの方が…、いっぱいくれてる、から…」
「どっちが多いとか、どうやって比べるんだよ。お前は俺の思ってること感じてること、全部分かんのか?分かんないよなぁ。分かってたら、こんな拗れてねぇ筈だし」
言い淀んだ彼女を見て、しまった、そう思った。
悪い癖だ…、つい、言い負かそうとしてしまう。
違う、責めたいとか、そんなんじゃなくて、
「だっ…て…!気づいたら、顔なんてまともに見れないし、三郎次はやたら優しいし、なんかもうぜんぶ、恥ずかしいし、って言うか何で私?もっと可愛い子いるじゃん!もっと優しくて、可愛くて、気のきく甘え上手な子、いるのに、何で、」
俺の中の何かが、プツンと切れた気がした。
「…お前さぁ、俺の話聞いてた?聞いてないだろ。聞いてたらそんな言葉出て来ないよなぁ。『何で私?』って何だよ。ちゃんと説明しただろーが。いい加減にしろよ…」
半分程しか開かない目でも、『しまった』そんな顔をしているのが分かった。
いつまで、繰り返すんだよ。
「…なぁ、勘違いしてねぇ?俺は別に、ヨリ戻す為にこんな話してる訳じゃねぇんだけど。お前が今のまんまで付き合ったって、また同じ壁にぶつかるだろ。そんなことしたいんじゃない」
小刻みに、震えてるのを感じる。
目の前の彼女からなのは間違いないが、もしかしたら、自分も、そうなのかもしれない。
「俺と向き合う気がないなら、はっきりそう言えば良い。曖昧はナシだ。お前が出来ないって言うなら、諦める。無理強いしたって仕方ないからな」
はっと顔を上げたのが、見えた。
…俺が見たいのは、そんな顔じゃない。
「お前が無理だって言うなら、もう会わない。連絡もとらない。これが最後だ」
それぐらいしないと、そうしたとしても、暫くは、忘れられそうもない。
…結局、振り回されてばっかりだったな。
それが嫌って訳じゃないけど…、見返りを求めずにいられる程、大人にはなれない。
「…急に押し掛けて悪かっ、」
「待っ、て…!お願、い、…いかない、で…」
掴まれたシャツの裾は、跡が残りそうなくらいくしゃくしゃになってる。
…シャツじゃなくて、腕にしろよ、なんて、気を紛らわせても。
「いつも、自信、なくて、嫌われたく、なくて、なのに、嫌われるようなことばっかり、しか、出来なくて、いつも、全部、嬉しい、のに、申し訳なくて、何にも、出来なくて、でも…、ごめんなさい、三郎次じゃなきゃ、ヤダ…」
ほら、もう、どうしようもない。
緩む頬を、制御する術がない。
…どれだけ、待ったと思ってるんだ。
「…なぁ、俺のこと好き?」
小さく、『大好き』と言った笑顔が可愛かったから、全部許してやろうと思った。
***
H26.7.19
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