「…あー、えっと、その…」

「ヨリ、戻ったんだね?」

「あ…うん、はい…」

「うんうん、そうじゃなくちゃね。良かったね、二人とも」



満足気に笑う時友に、恥ずかしさが増していく。

事情知ってるし、話も聞いて貰ってたし、報告はしとこうかな、と思って…。

思ったん、だけど…、何でいるの。



「…って言うか、お前ら、知り合い…?」

「え、そうだよ?って言うか今更?」

「…聞いてねぇし」

「知らないだなんて知らなかったもん。ねぇ、なまえちゃん?」

「なんで名前呼びだよ!?」

「えー、僕となまえちゃんの仲だもん。ねー?」

「…時友、ややこしくしないでよ…」

「ちょっとくらい良いじゃない。三郎次になまえちゃん盗られちゃったんだもん」

「元々俺のだっつーの」

「えー、そんなこと言ってるよなまえちゃん?」

「いや…、私は私のものだし…」

「ほらぁ!」

「なまえ、お前空気読めよ…!!」

「え…、ごめん…」



この二人が仲良いのは知ってたし、だからこそ時友と知り合ったんだけど、二人が一緒にいるところに居合わせることはなかった。

けど、

たぶん、いつもこういう感じなのね、なんて、ものの数分で分かってしまった。



「三郎次、なまえちゃんに当たっちゃ駄目だよ。現実を受け止めなきゃ」

「お前なぁ…!」

「そんなに怒って、なまえちゃんに嫌われても知らないよ。あ、でも、その時は、なまえちゃんは僕が貰うから安心してね」

「ッはぁ!?ねーよッ!!なぁ、なまえ!!」

「え、うん」



……咄嗟に、素直に頷いてしまったけど。

何だか、とてつもなく恥ずかしい。

…話を振った本人が、きょとんと目を見開いてるって、どういうことだろう。

…やっぱり、まだ、信用されてないってことか。



「良かったね、三郎次。良いなぁ僕もなまえちゃんとラブラブしたーい」

「なッ、べッ、つに、違ッ、」

「…違うんだ」

「は!?違ッ…!おまッ、…ズルイだろそれ…」

「もー、ノロケならヨソでやってよ。ほら、二人とも帰って!」

「ッ、惚気てねぇし…!」

「ハイハイ」

「聞けよ!!」



ワザと言ったな、なんて、分かりきってるのに。

恥ずかしさからなのか、食ってかかるのを止めない彼は、少し滑稽で。

…可愛い人だなぁと思ってしまうのは、惚れた欲目とでも申しましょうか。



「なまえ、帰るぞ!」

「あ、うん。…時友、これ、冷蔵庫入れとくね。あっためて食べて」

「やった、ありがとう!」



放っておくと、肉と炭水化物しか食べないから、どうしても気になって。
お節介かな、とも思うけど、つい、何かしら持ってきてしまう。
毎回、おいしかった、アレが好きだった、と感想を添えてタッパーを返却してくれるから、迷惑ではないみたい、だと思いたい。



「…あれ、何?」

「…冷蔵庫入れたヤツ?」

「そう」

「筑前煮。時友、与えないと野菜食べないから」

「…それは知ってる、けど…何でお前が…」

「時友とご飯行くと大体そうだから」

「そうじゃなくて。何でお前が作ってやってんの」

「いや、昨日の残り…」

「…そういう問題じゃねぇよ。何でお前の手料理をやってんの、って話」

「あ、えっと…出来合いのものって栄養少ないし味付け濃いし、塩分…」

「…だから、そういうんじゃないって…」



ため息混じりに吐き出された台詞に肩が揺れる。

どうしよう、またやってしまった。

…心当たりが、ない訳じゃない。

でも、それを信じるのは…、まだ、怖くて。

…でも、ここで引いたら、また、同じことの繰り返し、だから、



「…………妬い、た?」

「……は?」

「ごっ、ごめんなさい嘘です調子乗りましたホントごめんなさいごめんなさい…」



どうしようどうしよう勇気を振り絞るところを間違えたんだやってしまったどうしようどうしよう…
あぁもうやっぱりやめとけば良かったどうしよう…!
これはもう逃げるしかない時に解決して貰おう暫く距離をおけば忘れてくれ、忘れて、くれ…るかな…この人…



「あの、えっと、ごめ、」

「…何で謝ってんだよ」

「いや、その、変なこと言って不快にさせた、から…」

「誰が言ったんだよそんなの。……図星突かれたから、面食らったんだよ、悪いか?」

「…悪くは、ない、です…」



間違っては、なかったみたい、です…

ほっとしたら、気が抜けて。

思わず、へたりこんでしまった。



「…は?ちょ、どうした!?どっか痛いのか!?」

「…気が抜けたら、力、入んなくなって……ごめんなさい…」

「……お前さ、まだ、怖い?」



それは、機嫌を損ねることとか、怒らせることとか、…嫌われることとか、を、指してるんだと、思う。

…確かに、まだ、怖い。

けど、このままで良いとも、思っては、ない。



「…お前、シロには、普通じゃん。普通に、喋るし、笑うし。…俺は、いつまでお前に気遣われ続けんだろうなって思うと…、俺だって、怖いんだよ」



こわ、い…

彼に、怖がることなんて…、と、思ってしまうけど。

もし、…もし、この都合の良い考えが、ホントだったら。

彼も、同じ、だったら。



「…特別、だから、なんか、うまく出来なくて…、ごめん、でも、ちゃんと、なるから…」



胸を張って、彼の隣を歩けるように、

周りを気にしない訳じゃないけど、それよりも、問題は私の中にあるみたいだから。

ちゃんと、溶かしていけると、思う。



「なまえ、」



顔を上げた先には、私に手を差し伸べる彼がいる。

鐘は鳴ったのに、私は、傷つけてばっかりだったのに、

携えて来てくれた靴は、まだ履きこなせなくて、靴擦ればっかりで、

うまく歩けない、
それでも、
見捨てずに、求めてくれるなら、

何だって、出来る気がしてならなくて。

…同時に、烏滸がましい、とは思うけど、沸き上がる感情もあって。

たぶん、ずっと前から、それこそ、彼が私を見てくれる前から、芽生えていたことも、
口に出しても、許されるかな、なんて、少し逆上せた頭のまま、思ってしまって。



「…もっと、甘えてくれれば良いのに」



はっと気がついた時には、もう遅い。

口から転がり出てしまった言葉は、無かったことには出来ない。

思っても、言うつもりなんて、なかったのに。

どうしよう、どうしよう、自分も出来てないのに相手には求めるだなんて、なんて、厚かましい。

わたわたと私の頭の中は忙しいけど、私の前にいる筈の彼は静かで。

あぁ、また、呆れさせてしまった?怒らせた?
どうしてこう、うまく、出来ないんだろう。



「なまえ」



呼んだ声と同時に、ぐんっと体が伸び上がる。

彼の掴む右手が熱を帯びて、じわじわと頬へ流れ来るようで。

一瞬、遮られた視界と、熱を帯びた場所が、頭と、もうひとつ、増えたことが、何となく、頭の遠くの方で分かって、



「お前が甘えろっつったんだろ。…覚悟しとけよ」



鼓膜を直接揺らすような距離と衝撃に、また、力が抜けていく。

支えられているその腕に、鼓動の早さが伝わってしまいそうで、恥ずかしい。

恥ずかしい、けど、なんて贅沢で、幸せなんだろうって、思わずには、いられなかった。






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